大学の約束2016-2017
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3これから必要とされるのはどんな人材か? そんな質問をよく見かけます。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は2013年の論文で10〜20年後には50%近くの職業がなくなると発表しました。本当に論文のとおりになるのかはわかりませんが、少なくともこれから先の20年で今よりももっと国際化が進み、AI*も進化することを考えると、人間の仕事も変化していくのは間違いなさそうです。大学も変化の時代だと言われています。英語の授業を増やし、学生の国際化を進める。また自ら課題を発見し考える力をつけるために、教員から一方向で受ける授業から教員がファシリテーターの役割をこなすべきだと言われています。社会のニーズが変化したのだから大学も変化しないと、というわけです。ところで私たちが高校生のころは、ポケベルが全盛でした。また、裕福な国と言えばアメリカやヨーロッパで、アジアは基本的には日本よりは貧しい国という認識が一般的だったと思います。ところがこの十数年で状況は一変しました。スマートフォンが生まれ、日本のGDPは中国に抜かれました。アジアの富裕層の桁違いのお金持ちっぷりにはいつも驚かされています。私たちは未来に何が起こるのだろうかと予想しますが、本当に予測なんてできるのでしょうか。iPhoneが登場してまだ9年しか経っていませんが、9年と言えば22歳で卒業して30歳になったぐらいの期間です。20年はおろかほんの数年後に社会がどうなっているのかすら私たちにはよくわからないと思うのです。未来は予測できないと言いましたが、誰かはその未来作りにかかわっています。未来は突如現れるわけではなく、今の蓄積でしかありません。予測するより作ったほうがいいよと、アラン・ケイは言っています。例えば、100mの金メダリストを日本で育てるという夢があるとします。スポンサー企業に営業をして、才能のある選手を集め、最高のコーチを勧誘し、トレーニング環境を整える必要があります。その時必要なのは、スポーツマネジメントの能力なのか、それともファイナンスの能力なのか、それともコーチングの能力なのか。ほとんどの夢は一分野の力では達成されません。幾つかの違う分野の専門家が協力をする必要があります。これから求められる人材とは、ひとことで言えば、〝夢を描き、越境する人材〞ではないでしょうか。分野にこだわらず、描きたい未来の姿から必要なものを引っ張ってくる、そういう人が必要とされると思います。どうしても人は自分の専門分野にこだわってしまいます。それが良い時もありますが、悪い時は専門分野に縛られた未来しか見ることができなくなります。未来は往々にして合わせ技、何かと何かのかけ合わせにあるのではないかと思うのです。各分野には文化があり、時にはぶつかることもあります。日本で言えばスポーツ界とテクノロジーの世界は距離がありますが、そこには明確な理由はなくただ文化的に相性が良くないということだけだと私は思っています。その二つの分野が協力すればおもしろいことをたくさん起こせると思うのですが、越境してちゃんとコミュニケーションをとる人材がいなければ接触は起こりません。冒頭の質問に戻ります。〝これから必要とされるのはどんな人材か?〞私はこれまで必要とされてきた人材とさほど変わらないのではないかと思っています。いつの時代も夢を描いてくれる人、違う分野をつないでくれる人が求められてきたのではないでしょうか。未来は〝あいだ〞にある。分野のハードルをいとも簡単に飛び越えていくような人を社会が求めています。そしてそのために、常日頃から自分とは違う人間とコミュニケーションをとるべきだと思うのです。ためすえだい●1978年生まれ。法政大学卒。株式会社侍代表。世界陸上選手権で2度の銅メダルを獲得。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。「侍ハードラー」の異名をつ元トップアスリート。2012年引退。現在はスポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行う。*AI 人工知能

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