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難民問題のために日本ができることは?支援策を考えるスペシャリストに聞く

難民問題のために日本ができることは?支援策を考えるスペシャリストに聞く

ニュースをよく見る人なら、最近しばしば耳にする【難民】という言葉。
 
中東のシリア難民の問題など、みんなの中にも難民問題に興味をもっている人がいるのでは?
 

 
そこでお話をうかがったのは、外務省の国際協力局の緊急・人道支援課の青柳雄(あおやぎ ゆう)さん。
 
難民支援の施策に携わるスペシャリストだ。
 

 

 
まずはみんなに質問!
 

世界で難民と言われている人たちは、どのくらいいるか知ってる?

 

 
青柳さんに答えを教えてもらった。
 

「紛争、政治や宗教の対立、民族紛争などの理由で、外国へ逃げたり、国内の別の場所に避難を余儀なくされた人たちは、世界で約6500万人以上と言われています。
 
第二次世界大戦後、最大の数になっているんですよ」

 
約6500万人というと、日本の人口(約1億2500万人)の半数。
 

難民・国内避難民(※)とされる人たちは、紛争の長期化など、さまざまな理由からふるさとへ帰ることができず、避難生活が10年、20年と長期になる傾向にあるという。
 
こうしたことにより、難民等の避難を余儀なくされた人たちの数は戦後、最大になってしまっている。
 

 

「数が多くなり、また長期化することにより、難民を受け入れている国や地域の負担が増えるという問題も、深刻化しています。
 
住む場所が足りなかったり、地域によっては食料が不足するといった問題が発生しているのです」

 

※国内避難民
紛争、政治的な対立や民族紛争、飢饉などの理由で、国内で別の場所への移動を余儀なくされた人たちのこと。

 

突然起きた紛争や自然災害…。難民となった人や被災者にどんな支援をする?

 

では、日本はどんな支援をしているのだろう?
 

海外で紛争や自然災害などが起きると、被災したり、難民・国内避難民となる人が大勢発生する。
 
それに対し、日本では次の3つの【国際緊急援助】を実施している。
 

●救助隊の派遣など人の派遣
●テントや毛布など物資の提供
●資金的支援

 

 
この中で青柳さんの仕事は、資金的支援を行うための手続きだ。
 

「緊急無償資金協力(※)と呼ばれている支援です。
 
被害を受けた国の政府や、現地で人命救助や医療、災害復旧といった活動に取り組む国際機関などに対して、資金を提供しています」

迅速に資金的支援を実施するために、まず重要なのが情報収集
 

「外務省には、国や地域を専門的に見ている部署があり、その部署と連携して業務を行います。
 
各担当部署はその国にある日本大使館と密に連絡を取り合っていて、紛争、災害時でも、最新の被害状況や難民の流入状況など、知りたい情報を教えてもらえるんですよ」

 

※医療支援活動を行う国際緊急救助隊・医療チーム(写真提供:JICA)

 

そして、日本はどんな支援をするべきか、それにはどのくらいの資金が必要かを、協議する。
 
例えば長期化する紛争から逃れてきた大量の難民を受け入れている国に対し、難民の生活環境を改善するための水や衛生、保健分野の支援、干ばつの被害で深刻な食料難に陥っている地域に対する食料支援など、状況に合った適切な支援が求められる。
 

「主要ドナー(※)国の動きや、被害を受けた国と周辺諸国との関係など、いろいろな論点からの議論が必要です。
 
また、UNHCR(※)や国連WFP(※)といった国際機関などからも情報収集をし、意見交換をします」

議論を重ね、意見を調整。
 
支援の内容をまとめ、財務省に相談して、支援する金額と支援内容についての承認をもらう。
 

※国連WFPを通じた日本からの食料支援を受け取る干ばつ被災者(写真提供:国連WFP)

 

(※)緊急無償資金協力
緊急に資金を提供する支援。
海外での自然災害の被災者、紛争などの被害を受けて難民・国内避難民となった人などを救援することを目的としている。

 

(※)ドナー
支援を受ける国(開発途上国)に対し、支援をする側(国、機関など)を「ドナー」と呼ぶ。

 

(※)UNHCR
国連難民高等弁務官事務所

 

(※)国連WFP
国連世界食糧計画

 

生活物資などの支援に加え、「職業訓練」や「教育」も行う

 

「資金的支援と言うと、食料や毛布などの緊急的に必要な物資を配布するための資金をイメージされると思います。
 
また、難民キャンプでの生活が長期間になると、いつも大勢の人たちと一緒でプライバシーがなく、思い切り遊べない子どもたちのストレスも大きくなるので、カウンセラーなどによる子どもたちの心のケアも行っています
 
しかし、それだけではなく、日本が今特に力を入れて取り組んでいるのは『人道支援と開発協力の連携』です」

 

難民・国内避難民の問題は、長期化、また複雑化している。
 
この状況を打開するために求められているのが、従来からの人道支援だけでなく【開発協力】の支援を併せて行うことだと青柳さんは話す。
 

 

では、【開発協力】とは、一体どんなことなのだろう?
 

「難民や国内避難民のみならず、彼らを受け入れている地域の住民が自立して生活していけるよう、教育を受けられる環境を作る、職業訓練をするといった支援が含まれます。
 
こういった支援は、将来,難民や国内避難民が元々住んでいた国・地域に戻った時に役立つもので、その国の安定にも貢献することになります。」

 

※ガーナ共和国における洪水被害に対する緊急援助物資引き渡し式(写真提供:JICA)

 

各国・地域の担当課との連携から生まれる仕事のやりがいとは?

 

緊急事態が発生してから、緊急無償資金協力実施の公表まで、平均して10日間から2週間程度。
 
限られた時間の中で、「どれだけの情報を集められるか」という【情報収集力】、また、「何が必要とされているのか」を理解する【分析力】、それらをふまえたうえで、「どんな支援をするべきか」を迅速に決める【判断力】など、専門性が求められる仕事の中に、大きな魅力があるという。
 

「一緒に働く外務省の各国・地域の担当部署の人たちは、それぞれの国のことに詳しく、歴史や気候・風土、政治経済などの情報量が豊富。
 
また、各国のためにと愛着をもって取り組んでいると感じています。
 
そんな人たちの仕事ぶりに接していて、私ももっと努力しなければと、良い刺激を受けています」

 

※青柳さんは2012年から2年間、外務省在外公館専門調査員として、在東ティモール日本国大使館に勤務。
写真は2012年、東ティモール独立10周年に実施された国民議会選挙の選挙監視の様子

 

※2012年、東ティモールの現地NGO代表者と共に

 

※2012年に東ティモールの首都・ディリで開かれたディリ国際マラソン大会に出場。
ゴール前で当時のグスマン首相(写真手前、赤いTシャツ着用)とハイタッチ

 

※東ティモールの日本大使館は海岸沿いに位置し、海岸に沈みゆく夕陽の美しさは思い出に残る風景

 
   

もうひとつ、青柳さんが忘れられないできごととして話してくれたのが、2015年9月の国連総会の一般討論演説でのこと。
 

「一般討論演説は、各国の首脳クラスの要人が難民危機やテロ対策など、いろいろな国際問題について自国の政策をアピールする場になっています。
 
その年の一般討論演説には、日本から安倍晋三首相が登壇し、演説を行いました。
 
その演説の中に私がかかわった2つの支援内容の話があったことが印象に残っています。
 
通常、こうした場合の発言ポイントのネタを提供するのも私の課の仕事の一つなのですが、提供したものがすべて演説に生かされることはありません。
 
しかし、この時は私がかかわった2つの支援内容のことに話が及びました」

 

その2つとは…
 
●レバノンに流入したシリア難民と、受け入れているコミュニティーへの支援

「レバノンは、隣国シリアから大量の難民を受け入れている国です。
 
レバノンの難民の自立支援と、難民を受け入れているコミュニティーへの支援を目的とした支援を行いました」

 
●ヨーロッパの移民・難民問題に対する支援

「中東や北アフリカから、大量の難民・移民がヨーロッパに流れ込み、深刻な問題になっています。
 
受け入れる環境が整っていないのに、難民・移民の流入が急激に増え、ヨーロッパ諸国の負担が増してしまったのです。
 
特にこの当時、大変な困難に直面していたのが難民・移民の移動ルートにあたるセルビア、マケドニアなどです。
 
そこで、セルビア、マケドニアなどに対し、受け入れ施設の整備や食料などの配布を目的とした支援を行いました」

 

 
こうした支援内容を盛り込んだ、安倍首相の演説内容は、テレビや新聞でも報道された。
 

「難民・国内避難民に対して、日本がどんな支援を行っているか、あまり知られることはないのですが、こうして報道されることで、一般の人にも広く伝えることができたと思います。
 
支援の実施に携われた者として、充実感がありました」

高校生の皆さんへ

「難民問題の解決や人道支援は、世界的に注目を集めている分野です。
 
2016年には各国政府の首脳が集まって人道支援を話し合った『世界人道サミット』や、『難民と移民に関する国連サミット』、『難民サミット』といった大きな国際会議が開催されました。
 
何が問題になっていて、何をするべきかを考えるには、今がとても良い機会ですので、高校生の皆さんにもぜひ、興味を深めてもらいたいと思います」

 

 
そのツールとして、青柳さんが教えてくれたのは、国連広報センターの「TOGETHERキャンペーン」
 
ここ最近、難民・移民を排斥・排除の風潮が高まっているのだが、移民・難民のさまざまな背景を知り、幅広い角度から問題の解決を考えていこうというものだ。
 

 

国連広報センターのサイトから、さっそく、調べてみよう!
 

 

青柳さんの1日のスケジュール

 
08:00 起床
08:30 通勤
09:30 【業務開始】 大使館から集められた情報の確認/メールチェック
10:00 進行中の案件の進捗状況の確認
11:00 他の課から依頼のあった書類の確認
12:30 昼食
13:30 世界の難民問題等(※)の情報収集(インターネット、公開情報など)
14:00 大使館から集められた情報の確認(2回め)
14:30 地域担当課から案件実施に向けた意見交換
15:00 他課から依頼のあった書類確認
16:30 担当する業務に関する書類作り
18:15 【業務終了】
19:30 帰宅、夕飯(時々、帰宅前に同僚と食事)
01:00 就寝
 

 

(プロフィール)
青柳雄
外務省 国際協力局 緊急・人道支援課 外務事務官

 
高校時代の夢は、海外で働くこと。
アフガニスタン・イラク情勢など国際情勢に興味をもち、大学では国際関係を専攻。休みなどには東ヨーロッパや南アジア、東南アジアの国々を旅行した。
 
大学卒業後、大学院で公共政策学を専攻。人の役に立つ仕事をしたいと考え、人道支援の分野を志望し、UNHCR(※)駐日事務所でインターンを経験。
 
大学院卒業後、外務省在外公館専門調査員として2年間、在東ティモール日本国大使館に勤務。
 
帰国後、2014年から現在の業務に携わる。

 

(※)UNHCR
国連難民高等弁務官事務所

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小林裕子 フリーランスライター

小林裕子

出版社などで編集を経験し、フリーに。情報誌やWebサイトで仕事、資格、地域コミュニティ、住宅、生活スタイルなど幅広い分野で活動しています。さまざまな世界で活躍するプロフェッショナルを取材し、高校生の役に立つ情報をお伝えしていきたいです。

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