「危機管理学」ってどんな学問?個人情報保護からテロ対策まで

日本大学では2016年に危機管理学部を開設

 
スマホからの個人情報漏洩やストーカーなどの犯罪から、ゲリラ豪雨や地震などの自然災害、さらに、原発事故やテロ、北朝鮮のミサイル問題まで、私たちのまわりにはさまざまな「危機」がいっぱい
 
しかも、これらの危機の種類や中身はどんどん多様化・複雑化している
 
残念ながら、今や「安心・安全」に生きることが簡単ではない時代になってしまった。
 
そんな社会の状況を受けて注目されている学問分野が「危機管理学」だ。
 
まだまだ日本では登場したばかりなので、耳なじみがない高校生のほうが多いかもしれない。
 
代表的なところでは、日本大学が2016年に危機管理学部を設置し、話題になった。
 
そのほかでは、関西大学 社会安全学部などもこれに近い系統の学部だ。
 
では、危機管理学とはどのような学問なのだろうか。
 
日本大学 危機管理学部の福田 充教授に話を聞いてみよう!
 

自分たちの身を守るには国や自治体頼りでは不十分

 

 

「かつての日本では、大災害などの危機に際しては、国民の間に『国や自治体がなんとかしてくれる』という意識が強かった。
 
しかし、東日本大震災でも明らかになったように、自分の、そして身近な人たちの安全を守るには、国や自治体に頼るだけでなく、会社、学校、地域など社会のより幅広い層に危機管理の専門知識をもった人が必要です。
 
国や自治体による危機管理を『公助』、市民個人が自ら行う危機管理を『自助・互助』といいますが、それぞれで活躍できる専門家を育てるための学問が危機管理学なのです」

 

 
日本大学 危機管理学部を例に、その中身を見てみよう。
 
第一のポイントは、自然災害、犯罪、国際安全保障、情報セキュリティの4つの危機を教育の柱とし、このうちどれか一つではなく、すべて(またはいくつか)を幅広く学ぶこと
 
もう一つのポイントは、法学、政治学、社会学、さらには心理学など、社会科学を中心に分野を越えて総合的に学ぶことだ。
 

さまざまな危機についての知識が求められる

 
例えば、会社が遭遇する可能性がある危機を考えてみればわかりやすい。
 
顧客情報流出などを警戒するのはもちろん、大災害のときにどのように社員の安全を守るのかも重要な課題だし、海外赴任する社員がテロに遭う危険も想定しなければならない。
 

 
高校生の生活を考えても同様だ。
 
SNS上でのいじめ対策、災害発生時の避難方法、海外へ留学・修学旅行に行く際の現地の危険度の判断など、日々を生きていくためには幅広い危機管理が必要
 
どれか一つだけに詳しくても、多様な危機に対応できないのだ。
 

「また、情報セキュリティや地震などについては理系の個別の分野では以前から研究されていましたが、現実の危機に対応するには、技術的・科学的な専門性だけでは不十分。
 
例えば、地震の予知ができても、それを人々にどう伝えるか、パニックを防ぐにはどうしたらいいかを考えるには、社会科学や心理学などの知識も必要になるのです」

 
福田教授はさらにこう付け加える。
 

卒業後の進路は公務員から民間企業まで幅広い!

 

「国や自治体による危機管理というと、『国民を管理する』というイメージをもたれるかもしれません。
 

しかし、公助に求められるのは、人々の安心・安全を守るために危機管理を強化しながらも、人々の自由や人権をしっかりと尊重すること
 
そこでどのようにみんなが納得できるルールや体制を作っていくかがポイントなのです。幅広い知識に裏打ちされたバランス感覚が不可欠といえますね」

 
卒業後は、例えば、公務員や警察官・消防士として活躍する道もあれば、交通機関やライフライン、IT関連など民間企業で活躍する道も十分開かれている
 

 
さまざまな危機への対応が重視されるなかで、危機管理専門の部門を設ける一般企業も増えてきている。
 
自治体や会社の危機管理をサポートするリスクコンサルタントという専門職も今後有望な職種の一つ。
 
専門性が高いのに、選択肢が幅広いのは大きな魅力だ。
 
また、危機管理学を通して身につけた「リスクリテラシー(危機管理を実践するための能力)」は、仕事を離れても、自分や身近な人たちを守るために確実に活かせる
 
これだけでも学ぶ価値は十分あるだろう。
 
「社会で生きていくために本当に役に立つことを学びたい!」と考えている高校生は、進路検討の際に選択肢の一つに加えてみてはどうだろうか。