「怒るな、働け」。
ユニークな校訓をもつ、古くて新しい大学
嘉悦大学の前身は、明治維新の先駆者横井小楠の高弟・嘉悦氏房の娘、嘉悦孝(かえつ たか)が明治36年に創設した「私立女子商業学校」。日本で初めての女性のための商業専門学校です。嘉悦孝は近代経済学の祖アダム・スミスの「国富論」を原文で読み、アダム・スミスの心こそ日本の主婦が考えるべきことであると看破しました。女性も男性と同じ見識をもつべきだと考え、まだ予算主義といった言葉がない時代に、家庭を支える女性一人ひとりが経済的精神をもち、予算をアタマにおきながら家計を切り盛りし夫を支えることが、社会を良い方向に変えると考えたのです。嘉悦孝は、「誰にでも耐えられない怒りはある。しかし怒っては破滅を招くだけです。耐えて、そして働くことです」と述べています。孔子の教えにも通じる、社会の発展に必要な人間行動の普遍性を説いたものと言えるでしょう。また、この言葉は、ケンブリッジ大学を代表するエコノミスト、アルフレッド・マーシャルの「Cool Head, Warm Heart」という言葉にも通じます。「Cool Head」も「Warm Heart」も忘れられがちな現代社会だからこそ、嘉悦大学はこの言葉に込められた精神を大切にしていきたいと考えています。
嘉悦孝が開いた女子商業学校は、日本初の女性公認会計士をはじめ、多くの職業人を輩出しました。また、自ら寮に泊まり込み、寝食を共にしながら学生を育てるという手づくりの教育を実践しました。親のように学生を教え、育てる。嘉悦孝が実践した家族主義の教育は嘉悦大学にしっかりと受け継がれています。
今年で105年の歴史をもちながら、率直に言って嘉悦大学は日本ではそう知られていないと思います。その大きな理由は、女性のための実学の専門学校として出発し、長年短期大学として歩んできたため。4年制の経営経済学部を創設したのは2001年と、わずか7年前のことだからです。「KAETSU」の名は、むしろ外国での方が知られているかもしれません。1994年、嘉悦大学はケンブリッジ大学と教育・文化交流についての特別提携を結び、同大学ニューホール・カレッジに「嘉悦ケンブリッジ教育文化センター」を建設しました。豊かな緑に囲まれたセンターの姿は、創立800周年を記念して出版された同大学の写真集にも収められています。
三つの「変えます」と
一つの「変えません」
ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、私は慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の開設に関わり、1995年から昨年まで千葉商科大学の学長を務めてきました。新しいことに挑戦する、大学を変革する男といった評価をいただいています。新しいことに挑むというのは、言葉では言えても、実行は存外、難しいものです。大切なのは、何を変えるのか・何を変えないのかを明確にし、それを着実に行動していくことだと思います。
嘉悦大学学長に就任するに際して、私は三つの「ここは変えます」と一つの「ここは変えません」を大学内外に宣言しました。「変えます」の第一は、教員のリストラクチャリングです。学生を育てるのにふさわしくない教員の方々には辞職をお願いし、SFCの優秀な若手教員などを迎えいれました。嘉悦大学にもとからいた8割の優秀な教員に若手教員を加えた新しい陣容により、嘉悦大学らしい教育を実践する準備は整ったと言えると思います。
第二の「変えます」は、現代社会に不可欠な情報教育と情報システムの先鋭化です。SFCの若手教員を迎えいれることで、嘉悦大学では日本最先端の情報教育がスタートしました。また、Google社との提携により、多大な予算をかけることなくハイレベルな情報環境、情報ネットワークを活用できるようになりました。
三つ目は、24時間キャンパスの実現です。世界は24時間動いているのですから、学生がこれを認識し、いつでも学びに没頭できる環境をつくることは大学の役割です。嘉悦大学では昨年改装したC棟の1?2階を開放し、最大100人の学生が24時間インターネットに接続し勉強ができるスペースを用意しました。専任の教員の指導もありますが、もっと大事なのは上級生が下級生に教え、学生同士が共に教えあい・学びあう環境が自然にできるということです。24時間キャンパスは、SFCでも千葉商科大学でも実践しましたが、教育効果は大。24時間世界とつながり勉強ができる環境ももちろんですが、何か問題が生じた際、学生が自分たちで考え、解決しながらルールをつくることもいい経験であり、非常に大きな勉強になるからです。
一つの「変えません」は、冒頭にお話しした嘉悦大学の精神。温かな視線と愛情にあふれた家族主義の教育であり、「怒るな、働け」の校訓です。私が嘉悦大学の学長を引き受けたのは、この精神に共感したため。日本の将来のために、「Cool Head, Warm Heart」をもつ若者を育てることのできる大学を、国内にもっとつくる必要があると私は思っています。
講義の出欠はとらない。
出席したくなる授業を提供する
若者は豊かなポテンシャルをもった存在です。ポテンシャルの大きさは、いまも昔も、あるいは大学のブランドなどで変わるものではありません。いい環境といい機会に出会うことができれば、若者は目を見張るほど変わるものです。若者のもつ潜在能力を引き出すこと、勇気と自信を与えることも、大学の重要な使命なのです。
嘉悦大学ではいま、さまざまな試みを次々と実践しています。その一つが、三つの言語を学べる仕組みの導入です。人間には親しみやすい言語と親しみにくい言語があり、どの言語かは人によっても異なります。親しみやすい言語を発見し、学ぶことができると他の言語の修得も容易になるものです。嘉悦大学では、学生が国際社会で自信をもってコミュニケートできるよう、得意言語を早く発見し、きちんと修得できる仕組みを実践していきます。
二つ目は、多様な経験、幅広い学びができる環境をつくること。すでにプラダジャパンの社長による講演、ライブドアの平松元社長(現小僧com会長)による講演を実施。またSFC・千葉商科大学との三大学交流のほか、地元の大学との提携を推進していく計画、「学びたいものを学びたい大学で学ぶ、どこで学んでも単位として認められる」仕組みを実現していきます。嘉悦大学では来年度から会計の専門コースを開設する予定ですが、講師には高校の簿記専門教員を起用するのも、実践的な科目は最も教え方の上手な人に教わることが有効との判断からです。
私は来年度から、出欠を担当教員の自由にすると宣言しました。学生は授業料を払って講義を受けるわけですし、学びたい授業・興味を惹かれる授業があれば、自分から進んで参加するものです。出欠で学生を縛るのは本末転倒。本当に大切なのは、学生が学びたい授業がたくさんある大学、学生が行きたくなる大学であることです。楽しいだけでは大学ではありません。しかし、楽しくなければ大学ではないのです。
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