RECRUIT Learning Information Services Div.Co.   2008年9月1日更新  
  激変する教育業界の経営戦略「志願者減少時代の次の一手」  
  ■ CHAPTER  012   明治学院大学 学長 大西晴樹 氏  
 
             
    profileimages   「Do for Others」、
謙虚かつ誠実であることを基本精神とし、
行動力をもって社会に貢献できる人材を育てたい

大西 晴樹 氏

経済学博士。1953年北海道生まれ。1975年法政大学法学部政治学科卒。1978年明治大学大学院政治経済学研究科修士課程終了。1983年神奈川大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。同年、明治学院大学経済学部専任講師(西洋経済史担当)。1986年同助教授。1991年オックスフォード大学リージェンツパークコレジ訪問研究員(〜93年)。1993年明治学院大学経済学部教授。2004年同経済学部長。2008年4月12代学長に就任。

   
             
     
 

どのような目的をもって
「Do for Others」を実践するのか

 明治学院大学のルーツは145年前、ヘボン式ローマ字で知られるアメリカ人宣教医師ヘボン博士が横浜で開いたヘボン塾にあります。ニューヨークで医師として成功していた博士は、キリスト教を伝えたいとの思いを抱いて来日し、クララ夫人とともに未来ある若者に英語を教える塾を開きました。インフレ抑制に貢献した政治家・高橋是清、三井物産の創設者・益田孝なども、ヘボン塾で学んだ人びとです。
 ヘボン博士夫妻が塾を開いた文久3年当時は、尊皇攘夷の嵐が吹き荒れ、キリシタン禁礼の高札が掲げられていた時代です。身辺にはスパイが潜入し、クララ夫人が何者かに殴打され心身ともに傷を負ったことさえありました。それでも博士はキリストの言葉に堅く立って、武士から町人まであらゆる人に無償で施療活動をつづける傍ら日本語を学び、日本で最初の本格的和英・英和辞典『和英語林集成』を編纂出版、聖書の日本語への翻訳を果たしたのです。ちなみにこの時、丸善商社(現丸善株式会社)に辞書の版権を譲渡した資金をヘボン博士が寄贈したことによりヘボン館が建てられました。その後の再建により姿をかえつつ、現在もキャンパスにその名を残しています。
 明治学院大学は、ヘボン博士が生涯貫いた「Do for Others(他者への貢献)」の精神を教育理念として掲げ、キリスト教による人格教育を建学の精神として受け継いできました。時代は変わり、社会もさまざまに変化しています。そして、明治学院大学もまた、自ら変わろうとしています。しかしこの建学の精神と「Do for Others」の精神だけは、いまもこれからも明治学院大学の原点として、しっかりと根付かせ、息づかせていきます。
 ここでもう一つ大切なことは、学生たちが「Do for Others」の目的語=Whatをもつことです。自分はどう生きたいのか。将来どのような仕事を通じて「Do for Others」を実践したいのか。そのためには、何をどう学べばいいのか。どのように双方向のコミュニケーション力を培っていけばいいのか。学生一人ひとりの夢を大切にしながら、その夢へのチャレンジを力一杯支援していきたいと考えています。大学は社会との接点に位置するものです。明治学院大学は、実行力や問題発見・解決力、コミュニケーションスキル等、いま社会が求めるコンピテンシーを学生たちが身につけ、自信をもって社会へ羽ばたけるよう、さまざまな努力を積みかさねていきます。

5つの教育目標を柱に、
「Do for Others」を実践できる人材を育てる

photo  明治学院大学は、長い歴史と伝統をもつ大学ですが、社会的には強烈な個性をもたない「おとなしい大学」と評価されているようです。「Do for Me」がまかり通る世の中で、「Do for Others」の精神を身につけた謙虚で誠実なありようは、明治学院大学の個性であり、貴重な資質だと思います。しかし、大学の特色や個性を打ち出し、それにふさわしい学生を育てることは、私学の役割でもあります。ビビッドな黄色を基調とした新しいロゴマークの採用によるグッズなど、ヴィジュアル・アイデンティティー構築の作業は一応完成しました。今後はさまざまな情報を積極的に発信していきたいと考えています。
 教育面では、6学部13学科と明治学院共通科目を担う教養教育センター、及び大学院11専攻の「教育目標」とそれに関わる当面の改革プランをマニフェストとして発表しました。明治学院大学の教育目標は、「他者理解による心豊かな人間の育成」「分析力と構想力をもつ鋭利な人間の育成」「コミュニケーション能力に富む人間の育成」「キャリアデザインのできる人間の育成」「共生社会の担い手の育成」の5つ。例えば、語学や芸術文化に対する理解や心のありようの分析による他者理解は人文科学教育で。経済活動や法制度、社会システムなどの分析力や構想力は社会科学教育で、というようにそれぞれの学問分野での学びを通じて実践していきたいと考えています。

キャリア設計能力の養成を通して
目的達成を実現へと導く

 コミュニケーションについてはすでに触れた通りですが、将来の「What」を実現するために「キャリアデザインできる力」は、非常に大切だと思います。そのため、明治学院大学では専任のコーディネーターを採用し、的確なアドバイスができる体制を整えました。また、企業のなかで現実を体験するインターンシップにも力を入れており、経済学部では学部生の半分以上にあたる350人が参加、順次他の学部でも実施することを目指しています。また、国内だけでなく海外においてもフィールドスタディやインターンシップなど、それぞれの学部の特徴を活かした取り組みをしています。
 もう一つの特色あるプログラムが、今年度からスタートする「ヘボン・キャリア・プロジェクト」です。これは2年次・3年次の2年間にわたるプログラムで、夏期休暇を利用し、学生が自信をもって希望の業界に巣立てるよう、必要な専門知識や幅広い素養を身につけるためのものです。第一回目の今年は、学生の希望が多く、難易度が高い「放送・メディアコース」を開設。2年次では集中して基礎プログラムを行い、そこで身につけた基礎力の上に3年次に就職活動対策を中心とした就職支援プログラムを実施していきます。2009年度は「エアライン・ホテルコース」を実施する予定ですが、こうしたスポットのあたる人気度の高い業界だけでなく、さまざまな業界についても順次取り上げていきます。自分のめざす「What」のために早くから研鑽できる仕組みと環境づくりもまた、大学の使命であると私は考えています。

どれだけ自分に「伸びしろ」を作れるか?
大学4年間の過ごし方にかかっている

photo  「共生社会の担い手の育成」とは、人と社会と自然の共生に共感し、考え、行動できる人間の育成です。隣人とともに生きるとはどういうことか。国や民族・言語を超えた共生とは。自然環境は社会とどう関わっているのか等、理解を深め、自らの精神として血肉化してほしいと願っています。
 明治学院大学の特色の一つである、ボランティアへの取り組みもその一翼を担うものといえると思います。明治学院大学では1998年に横浜キャンパスにボランティアセンターを設け、学生と教職員が一緒になり、さまざまな活動に取り組んでいます。阪神淡路大震災のときは、本学から大勢の学生が駆けつけましたが、そこで体験した厳しい現実が学生の視野を広め、気づきを深めています。最近、ある学生が「万一の災害時の焚き出しのために、横浜キャンパスにかまどをつくろう」と提案しました。計画としては甘いところはありますが、こうした発想ができること、それを実現させようとする行動力に私は豊かな可能性を感じています。
 大学での4年間で最も大切なのは、「どれだけ伸びしろができるか」ということです。もちろん学問も大切ですが、キャンパスで友だちと和気あいあいと過ごす、真剣な議論を戦わす、ゆったり食事をするといった時間もまた大切です。来年度から、横浜キャンパスが風力・太陽光発電設備をもつ「エコキャンパス」として生まれ変わるように、明治学院大学では「Do for Others」の精神を、社会のため人のために敷衍させていきます。そして学生たちが豊かな「伸びしろ」を獲得できるよう、場と環境づくりにいっそう力をいれていきます。