キャリアガイダンス vol.407
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HINT&TIPSろなものを扱う経験』が不足しているからです。試験管を振る動作でも、加減がわからず、勢いあまって手からすべらせたり、逆に恐々としか振れなかったりします。マッチを擦った経験がない生徒も多く、IH調理器のある家庭では、火を間近で見たことがない生徒もいます。実験に使う粉末を開け放した窓のそばに置けば風で飛ばされる、ということも、失敗してはじめて学びます。何かあった時に、便利なものに頼り過ぎなくても生活できるよう、自分でものを扱う経験は、積んでおいたほうがよいと思うのです」 だから勤務してきた学校では、どこでも一貫して実験の回数を増やしてきた。「初任校では『うちの学校であんなに実験をして安全面は大丈夫か』と不安に思われた先生もいたようです。その点では、学校の生徒のタイプに合わせて危険が少ないものを選ぶなど、実験内容は変えていました。ただ、私は普段から特に凝った実験はしていないんですね。教科書にある実験ばかりしているので、内容を選べばどの学校でも実験はできるんですよ」 学習内容を板書して丁寧に教えることにも「悠長すぎないか」と感じていた。 「ノーベル賞を取った益川敏英先生が言われていました。昔の物理学の実験は一室でできたが、今では山一つあるような加速器を使う、と。その中で科学の基礎知識も、100年前より膨大に増えました。にもかかわらず、明治時代から続く板書方式でいいのかなと。生徒には、基礎は圧縮して全部さわり、完璧には覚えなくても、その幅広い知識から必要なことや本質的なことをつかむ、ということをできるようになってほしいです」生徒への「場」の提供のために学校外の多様な人とつながる 戸山高校に来た5年前からは、生徒が大学や企業など外部と交流したり、対外的な発表をしたりする「場」を提供することも力を入れるようになった。その中で人に感化されたり、恥をかいたりして、「自ら学びを獲得してほしい」からだ。 では、生徒につなげるための外部とのコネクションを、田中先生自身はどうやって築いたのだろう。 「来るもの拒まず、去るもの追わず、というスタンスでできた縁ですね。前任校にいた頃から、大学や企業、NPOの方などから、『科学教育で一緒にこんなことをしませんか』というお話を時々いただくようになりました。そうしたお話を、基本的に断らなかったんです。まずは会ってみて、私がやりたいことを相手にも語るようにしていました。そこで興味をもってもらえれば、相手がまたいらしてくれて、さらに話が進みます。来なければ縁がなかった、ということですね。そうして外部との付き合いができていくと、私についての情報がほかにもまわるようで(笑)、さまざまな方から、科学教育の企画や情報をいただけるようになったのです」社会は変化しているのに旧態以前とした学びでいいのか 田中先生は、学生時代に家庭教師をし、そこで「対話しながら勉強をみる」ことのおもしろさを知り、教師になった。 一方で、その頃から「学校教育はこのままでいいのか」という思いもあったという。例えば、理科の授業は、入試に備えるために講義が増えて、実験や観察は減る傾向にあった。しかし、田中先生はそうした実習こそが大事だと感じていた。 「今の子どもたちは、日常生活で『いろい授業ができるまで1実験や演習で本質的に何を学んでいるかを社会で求められる動作や発想を示して伝える 実験や演習を行うのは、化学の興味を高めるためや、入試に備えるためでもあるが、田中先生はそれ以上に「仕事や生活全般に通じるよりよい動作や考え方を、授業で学んでいるんだ」という点を具体例とともに強調。化学の知識や技能だけを学んでいる感覚の生徒には「本質が見えていない」と釘を刺す。2時代とともに質・量とも増す基礎知識を生徒が広く学び、使いこなすことを目指す 知識の詰め込みは否定されがちだが、田中先生はある意味で重要さが増したと考える。現代の課題解決に必要な基礎知識は、自然科学・社会科学とも増えているからだ。生徒には、化学の授業で、圧縮した短時間で幅広い知識をさわり、それを演習や課題研究で使いこなす、という力をつけてほしいと思っている。3どの学校でもできて継続しやすいような汎用性のある授業の工夫を考える 独自のワークや実験に凝って自分の負担を増やすより、田中先生はどの学校でも継続しやすいやり方で授業を工夫したいと考えている。教科書に沿ったプリントの活用で講義時間を圧縮することや、教科書にある実験を増やすことは、オーソドックスな手法で、内容を調整すれば進学校でなくてもできる。4大学や企業やNPOからの教育連携の打診は会ってみてこちらの希望を伝え、縁を探る 独自のワークや実験には凝らず、時間をかけない代わりに、田中先生は外部から教育連携の打診があれば、可能な限り時間を取って話を聴く。ただし相手の提案をただ受け入れるのではなく、「こんな企画や展開はできないか」とこちらの希望も伝え、それに興味を示して縁ができた相手と話を進めていく。■ INTERVIEW 田中先生とは、1年生への地理・家庭科・化学のリレー授業を一緒にしています。2時間程の枠の中で3教科の視点から1つのテーマをつないでいきます。家庭科は生活を総合的な視点から捉える教科ですので、身近に豊富な素材をもち合わせています。そこで、テーマは家庭科で提案します。昨年度は実施が夏ということもあり、季節にふさわしい「Cotton」。家庭科からは日本文化が漂う浴衣の誕生や江戸の文様・着装、地理からは世界の綿花の生産消費や輸出入の現状と課題、化学からは硝化綿を使ってセルロース繊維の構造についての学びが展開されました。こうした取り組みを通して、生活事象を総合的に捉える視点を生徒達が実感することを目指しています。生活を総合的に考える家庭科の授業を起点にリレー授業を構成家庭科 主任教諭荒井きよみ先生582015 MAY Vol.407

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