キャリアガイダンスVol.417 別冊
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4Vol.417 別冊付録し、哲学の課題として取り組んできた。その思考のスケールは今の時代にも通用するものだ。17世紀のデカルトが機械人間について言及していることからも、彼らがいかに本質から未来を見据えていたかがわかるはずだ。 また、現代思想にも『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』(マイケル・サンデル著)のようにベストセラーになっている書籍もある。古典のガイドにもなるので、現代の国際社会への関心が高ければ、このような本を手に取ってみるのもいいだろう。 ただし、書籍による学習はあくまで入門であり、本格的に哲学する力を養うのは対話によるトレーニングだ。 「本来であれば、フランスのように高校時代に哲学や哲学的思考についてしっかりと教育することが理想でしょう。しかし、現状の日本の教育体系の中ではそれは難しい。それだけに、大学時代に、いかにこのような思考のトレーニングを重ねることができるかが重要になっています」PBLやサービス・ラーニングを通して本質的に考える教育に取り組む大学も 日本の産業の発展を主役として支えているのはテクノロジーである。そのため、大学教育にも理系を重視する方向にシフトする傾向が見られる。しかし、ここまで説明してきたように、社会課題が複雑化する中で、哲学を中心とする人文科学系の学問の重要度も非常に大きくなっている。テクノロジーの進化も大切だが、今こそ理系・文系がそれぞれに担う役割を意識するべき時がきていると小川氏は指摘する。 「そのため、大学における哲学の授業も変わりつつあります。かつては、哲学といえば、文献を講読するタイプの授業が一般的でしたが、今は、対話を重視する授業や、今現実に起きている社会的課題を取り上げる授業など、実践的な内容のものが増えてきました」 哲学や哲学的思考は、文学部哲学科で学ぶことができるのはもちろん、一般教養の哲学でも学ぶことができる。また、それ以外の学科・科目であっても、地域の課題などに取り組むPBL(プロジェクト・ベースト・ラーニング)、サービス・ラーニングなどで、「何が課題なのか」「何のためにやるのか」をしっかりと議論するタイプの授業も増えてきている。 「また、大学には同じような人生の課題に悩む同級生がたくさんいます。そんな仲間たちと、本質的な対話を重ねることも考える力を養ってくれるはずです」 このようにして鍛えられた哲学的思考は、社会課題を考える以外にも、さまざまな局面で役立てることが可能だ。 例えば、文化や宗教などバックグラウンドの異なる人たちと交流するグローバルな環境では、自分のアイデンティティを明確にして、それに基づいて主張し、議論することが求められる。「自分が何者であるか」を考えることはまさに本質に迫ることだから哲学的思考を活かすことが可能だ。また、禅などの日本哲学を学ぶことで、それまで意識せずに自分の中にあった日本人独特の考え方を客観的に理解し、グローバルな場面で自分の強みとして役立てることもできるようになる。 「例えば、『結ぶ』という概念も実は日本特有のもので、日本人ならではのチームワークの基礎になっています。これを理解しておけば、グローバルな組織において、欧米の方法に日本の良さを取り入れたチームづくりなども可能になるでしょう」 ビジネスにおいても、前例の踏襲ではない、まったく新しい発想が求められる今、哲学は役に立つ。新しいものを生み出すために必要なのは本質に立ち返って考えること。まさに哲学的思考が応用できるのである。また、理系の人材が哲学的思考を学ぶことで、テクノロジーが生み出す課題に対する今までとは違うアプローチも可能になるだろう。 「本質を考えることは、これからの時代、どんな立場の人にとっても必要になります。しかし、社会に出たらもう応用の世界。だからこそ大学で基礎を身に付けてほしいのです」 授業の中で、自分や社会について本質的に考える機会があるか、そのようなテーマの対話を教員と学生が、あるいは学生同士が重ねる機会があるか──。大学教育も大きく変わりつつある中、このような教育の手法やプロセスを掘り下げて調べることも、生徒の大学選びにおいて大切なポイントの一つになってきている。各地で草の根的に広がる「哲学カフェ」 今、一般の人たちが集まって哲学的な対話をする「哲学カフェ」が全国で草の根的に広がっている。この3月に山口県萩市で開催された哲学カフェの主催者の一人、山口県立萩商工高校(取材時)の松嶋 渉先生に話を伺った。 「自分の生き方や萩で生きるということについて、地域の人たちが一緒になって考え、刺激し合う機会をもちたいと思い、地元の有志と企画しました。参加者は高校生から60代まで年齢も属性も予想以上に幅広かったですね」 30人が、初対面同士の3人ずつのチームに分かれ、チームごとに自分たちで決めた「幸せとは何か?」などのテーマについて対話。お互いの社会的身分や価値観は関係なく、フラットな関係で語り合うのがルールだ。 「多様な人と本質的な対話をすると、一人で悩み、考えるだけでは到達できない視点を得ることができます。自分の夢について主体的に考えることの大切さに気付いたという高校生もいて、やってよかったと感じました」 高校生や高校の先生にとってはキャリア教育の観点からも価値がある催しといえそうだ。COLUMN

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