キャリアガイダンスVol.418
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HINT&TIPS 「英語教員は、英語という『自分もよくわかっていないもの』を扱っている、という苦しみを抱えていると思うんです」 堤先生が授業研究をするのは、その苦しみを少しでも減らしたいからだという。その思いは生徒にも率直に伝えている。 「黒板全体が英語の世界だとしたら、自分が知っているのはチョークのこの点にも満たないよ、と。自分は英語がわからない。わからないけれども精一杯がんばる、という話は生徒にも必ずします」 実際、堤先生はこれまでに何度も「英語がわからない」感覚を味わってきた。 もとは理系。夢だったパイロットを視力低下で断念し、世界を巡るジャーナリストに興味をもったので、高校では得意ではなかった英語もがんばった。そうして大学の外国語学部に進学するも、周囲は帰国子女だらけ。語学力の差を思い知る。 教員としての初任校は農業高校。中学英語で躓いている生徒が多く、学び直しを図るが、定着しない。「できなかったことを反復させるだけでは通用しない」「英語の教え方がわからない」と苦悩した。 二校目は進学校。教え方に自信はなく、「授業では学生時代の探検部の話ばかりした気がします。ただ、なぜか生徒の模試の結果や進学実績は上がったんですね。私の適当さに生徒が危機感をもち、本当に自分たちでがんばってくれたんです」 三校目は英語科のあった受験校。CNNの番組を新鮮な教材として活用したり、生徒がキャスター役で英文を読んだりと、さまざまな授業に挑戦した。生徒の反応も悪くなく、模試や受験では成果も出た。 でも堤先生の心境は複雑だった。受験英語を乗り切った自分自身、以降も英語を苦手にしているわけで、本当に「生徒の英語を伸ばせた」とは思えなかったのだ。 「伸びるからがんばれ、と生徒に言っているくせに、伸ばせていない。自分はニセモノだとすごく感じて、このまま教師を続けるのが耐えられなくなりました」 だから、旅で魅了された米バーモント州に渡ろうと決め、現地の大学院を受験。校長に辞意を伝えた。すると校長は無給になるが休業して海外で学べる制度を教えてくれ、その活用を薦めてくれた。 結局、教職のまま渡米。2年間、英語教授法や第二言語習得をむさぼるように学び、それを支えに、学校復帰を決めた。 「知りたいことを学んだので、めちゃめちゃ面白かったんです。自分もやれば勉強できるんだ、と初めて思いました」 帰国後は、他の先生と協働で授業改善にチャレンジ。そして4校目となる母校の田名部高校で、また得がたい機会に恵まれる。小中高連携授業のプロジェクトで、中学校の先生とも話し合うようになり、「中学校までに習った英語を『授業で使って定着させる』ことも高校の役割」と確信したのだ(HINT&TIPSも参照)。 翌2013年、田名部高校は指導改善の拠点校(※)に。同僚たちとTANABU Modelとなる授業づくりが始まった。授業ができるまで1英語を使うなかでの文法や語彙の定着を中学校で学んできたことも含めて狙う堤先生の授業では、英語を読む・聞く・書く・話すことのトライアル&エラーを生徒がくり返して、中学校レベルからの文法や語彙の定着を図っていく。語学教育会社の調査によれば、大学受験の79%は(語彙がわかっていれば)中学校までの文法で解けたそうで、基礎の定着は受験対策にも有効なのだ。2教師による添削は最小限にとどめて正解や間違いは生徒が自分で見つけるワークシートの記述はペアと全体で確認するが、正解や間違いの発見は基本、生徒任せ。自分の英語で表現するSTORY REPRODUCTIONでも、生徒が下線を引いて添削を求めたところだけ堤先生がチェック。先生に直されて気落ちする場面を極力減らし、生徒が委縮せずに英語を使えるようにしている。3既存テキストの書き出しや音読だけでなく自分の考えを書く・話す機会も大事にする以前にやったCNNの教材活用や生徒がキャスター役になる授業について、堤先生は今ではまだ足りない部分があった、と感じている。あくまでも既存テキストをなぞって記述や発声をする活動だからだ。現在はそれだけにとどめず、「自分の考えを英語で話す・書く」という機会を増やしている。4生徒も教師も慣れから成長を止めないよう授業モデルは常に進化・変化を目指す型のあるTANABU Modelの構築で、生徒は先を見通せる安心感を得られ、教員は授業準備の負担を減らせた。だが授業が硬直化すると、生徒は変化に対応できなくなり、各先生は窮屈さも感じる。だから授業モデルは「振り返ってみたら原型がない」のが理想とし、毎年、教員同士で話し合い進化させている。ワークシートの内容の全体確認の光景。まずは何人かの生徒が黒板に答えを書き、それを全員で確かめて、もし間違いがあれば生徒がまだ指摘する、という形で行う。あくまでも生徒主導だ。生徒の英語が伸びたと思えず自分はニセモノだと苦悩した■ 田名部高校 英語十箇条※文部科学省『英語によるコミュニケーション能力・論理的思考力を改善する指導改善の取組』拠点校堤先生が作成して田名部高校の新1年生に毎年配っている十箇条。ユーモアを交えながら生徒に身に付けてほしい心がまえを示している582017 JUL. Vol.418

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