キャリアガイダンスVol.419
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理職にものが言いにくくなり、『生徒のための先生』が育ちません。ですから現場の先生には、自分で良いと判断したらどんどんやるように伝えています。先生方が生徒に答えたことは、たとえ私自身の考えと違っていても、『校長の答え』として扱います」(竹川校長) 一方、非常時には現場の教員1人に抱え込ませるようなことはしない。生徒の問題行動や保護者からのクレームなどの問題発生時、担任は速やかに学年部長に報告し、必要に応じて教頭とも相談しながら、チームで解決にあたるのが通例になっている。 「突発的な問題を担任1人が背負うのは、精神的にも相当な負担になります。そこで、さまざまな経験や得意分野をもった教員チームで対応することで、スピーディに解決できるようにしています。それによって、クレームが学校に対する信頼感へと変わる例も少なくありません」(竹川校長) このように現場に権限移譲できる理由の一つに、同校教員間に共通の判断軸が浸透していることがあげられる。同校には竹川校長が常に示す「教職員としてありたい姿」がある(図1)。その内容は、職場を大切にし愛することや、世代間で高め合うことなど、シンプルな言葉で表現された5項目。学期の初めと終わりに竹川校長の思いとともに全教員に語られるなど、頻繁に話の引き合いに出される。それによって各教員の胸に刻み込まれ、日常的に何かを判断する際の指針となったり、部長クラスの教員が若手サポートにあたる際のキーワードとして使われたりしているという。 こうした同校の取り組みは、教員の「働きやすさ」につながっている。同校の柔軟性の高い勤務制度の下、教員は各自の裁量で業務を調整。画一的な勤務時間短縮の強制は意欲をそぐことにもなりかねないが、同校では業務量削減に向けた意識を高めつつ、それ自体がプレッシャーになるほどではないようだ。さらに、現場裁量で動けることが判断・対応スピードを速め、また、いざという時もチーム体制があることによって、経験の浅い教員の安心感につながっている。教員がそれぞれの意欲を発揮する、働きやすい職場環境といえるだろう。 今後の施策については、「勤続20年で1年間休ませるぐらいの制度があってもいいのではないか」と竹川校長。これからも教員が働きやすい環境整備に取り組んでいく方針だ。各自のペースで働きやすく安心感がもてる職場に改善による効果部員100人超のクラブもある。顧問だけでは指導しきれないクラブは外部コーチを採用。習熟度別授業は「ポイントを絞れるので授業がしやすい」と効率面の効果もある。竹川校長から教職員へ定期的に伝えていること図1授業数が減って生徒理解が進んだ校長の言葉を常に念頭に置いて自分で時間をコントロールできている要請事項教職員の心構え1つ自分の職場を大切になさり、愛してください2つまず我々教職員が夢と理想を持ちましょう3つ仕事を選ばないでください。生徒も選ばないでください4つ世代間を越えて高め合い、刺激し合って、それを組織に生かしてください5つ良い先生になってください「人心を大切に、約束を大切に、組織を大切に」を徹底 初任で本校にやってきて4年。ずっと中学校に所属しています。今年度から担当授業数が3コマ減り、その分、生徒の様子がよく見られるようになりました。生徒の状況が把握でき、保護者面談での話題も増えています。 クラス運営ではたびたび迷う局面に出くわしますが、学年部長や生活指導部長、教頭などにすぐ相談し、速やかに解決できるように心掛けています。どの先生も相談すれば必ずサポートしてくださるので、日々安心して仕事ができありがたいです。 (英語科 田中楓子先生) 柔道経験を生かして柔道部の顧問をしています。休みは少ないですが、好きな競技に関われているのでやりがいがあります。また、校長が話す5つの「要請事項」は教員に浸透しており、私自身も「良い先生になってください」などが日常ふと頭をよぎったり、教員として原点にかえって判断する必要があるときの参考になったりしています。 (保健体育科 吉原 寛先生) ちょっと時間ができれば1人でも多くの生徒の個別対応などをしている状況です。また、日曜日に授業の準備をして1週間の見通しを立てておくなど、自ら休みを削ることも。それをしないと行き当たりばったりになってしまい、気持ちの面で慌ただしくストレスを感じるからです。業務時間の問題というより、いかに自分で時間をコントロールできているかが、負担感に影響しているのかもしれません。 一方、学校全体には「早く帰ろう」という空気を感じます。特に年配の先生方があえて大きな声で「お先に失礼します」と言って帰られたり、周囲を促してくださるので、若手の先生も早く帰りやすいのではないでしょうか。(英語科 佐藤暢高先生)現場裁量権の拡大チーム体制ビジョン提示働き方改善につなげるためのポイント現場裁量権を拡大することは、現場の判断・対応スピードを高める効果がある一方で、教員個人の独自の考えだけでの判断や場当たり的な対応で混乱を招くことも懸念される。その点、八千代松陰高校では、「教員のありたい姿」として共通の価値観が浸透しており、また、非常事態にはチームであたる体制ができているため、教員個人のぶれを小さく抑えられている。現場裁量権拡大の効果を十分に引き出している事例といえるだろう。PickUpキーワード「多忙」とどう向き合うか…八千代松陰高校「働き方改革」で、どこへ向かう?Report 01152017 OCT. Vol.419

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