キャリアガイダンスVol.419
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■ 諫早高校(長崎・県立)「先読み」のときは、菰田先生は体を生徒のほうに向けて板書。復習から入って“考えるための道具”を与えることで、生徒が脳みそを動かしやすいようにする工夫も。先読みしているときの生徒は、板書を目で追いながら、先生の説明にも耳を傾け、頭の中ではこれから書かれることを予想して、と真剣そのものだ。 続いて「先読み」。菰田先生が編み出した独自のやり方だ。先生が板書・説明しているあいだはノートを取るのは一切禁止し、代わりに生徒は、話を聞きながら頭をフル回転させて、ポイントごとに、菰田先生がこれから板書することを先読みして声に出す。例えばこんなふうに。 (以下、太字が生徒の先読み部分) 「三角比の相互関係の公式は覚えなくていいと言ったよね。三角関数の定義(※)を覚えていれば導き出せるから。やってみましょう。まず、この直角三角形(傾斜角がθで斜辺の長さが1)に三平方の定理を使うと」「sin²θ+cos²θ=1」 「tanθは直線の傾きだから、中学校でも習った求め方により」「sinθ/cosθ」 「次にこちらの直角三角形(傾斜角がθで横の辺の長さが1)に着目すると、三平方の定理でまず出てくるのが」「1+tan²θ=……」 「ここまではわかる。あとは斜辺がわかればいい。この2つは同じ角で同じ直角三角形なので、大きさを拡大縮小しているだけ。(両者の横の辺の長さを交互に指して)cosθがこちらで1になるということは、何倍している?」「1/cosθ倍」 「1/cosθ倍すると、(片方の直角三角形の斜辺を指して)この1は、(もう一方の直角三角形の斜辺を指して)何になる?」「1/cosθ」(不明だったほうの斜辺の長さを算出できた) 「これで、あとはこの直角三角形に三平方を使えば」「1+tan²θ=1/cos²θ」 「という公式ができるわけです」 こうした授業風景を見学した人は、「台本があるヤラセでは?」と疑う。 でもそうではない。 「最初は声を出してねと言っても、生徒はほとんど出しません。でも何人かのお調子者はのってくれて(笑)、そのうち間違えた発言をします。そのときに授業をピタッと止めて、『ここで間違えておけばテストでは間違えん。どんどん間違えろ』と称賛します。すると二番手も声を出しはじめます。それでも恥ずかしがる子には『口パクでいいから出してみ?』と促します。そうしていくと、強制しなくても、5月頃には皆声を出してくれますね」 そのなかで生徒は実感していく。先読みしようと頭を使いつつ声を出していくと、「ノートを取るより理解しやすい」「定着しやすい」と。これもまた生徒が積極的に声を出すようになる理由の一つだ。 生徒の声がか細いときや、バラバラなとき(誰か間違えている)は「まだ理解できていない」とすぐわかるので、先生がフォローしやすいという利点もある。 先読みで学習内容を押さえたら、次はその知識を使って演習問題を解いていく。 その際のスタイルは「立ち話学習」。全員起立したうえで、解き方がわかった人から座っていくやり方だ。まだわからない人は、独力で粘ってもいいし、席を離れて周辺の生徒と相談してもいい。 その活動を、立っている人が0になるまで続ける。つまり、誰も置いていかずに全員が理解できるまでやるのだ。「わかったふりをして座るのだけはやめてくれ」「いくら時間がかかってもいい」と菰田先生が再三言っていることもあり、最後の一人になってもあまり気まずくない。 授業の締めくくりは、「学びの整理」。菰田先生が問題の答案を配り、生徒たちはそれも参考にしながら、自分の解答に付け加えておきたいことや、今日学んだことのポイントを、教科書やプリント、あるいはノートに書き込む。 菰田先生は、先読み時はノートを取るのを禁じているわけだが、厳密に言えばそれは「板書の丸写しはやめよう」ということ。授業全体では、「声を出すこと」「話し合うこと」と並んで「自分の考えを書くこと」も重視している。そうした多様なアウトプットをしてこそ、頭の中は整理され、思考がさらに深まるからだ。「立ち話学習」。先読み学習で手にした知識をうまく活用して、問題を解くことに挑む。自分で考え、周囲と話し合い、晴れて答えにたどりつくと、自然に感嘆の声があがる。「学びの整理」。先読みで声に出しながら学んだことや、立ち話学習でほかの生徒と意見を交わすなかで学んだことを、個々にふり返って「腑に落ちる」ところまでもっていく。校訓は「自立創造」、校是は「文武両道」。附属中学校から進学した生徒と、高校から入学した生徒がおり、1年次には習熟度の高いクラスを2クラス置く。Comprehension(理解)、Discovery(発見)、Ambition(大志)の頭文字をとった独自の教育プログラム「CDA学習」では、新聞記事の読み取り・要約、自分の考えを書く小論文学習、生徒が企画・招聘する講演会などを通して、豊かな進路観の醸成を図っている。普通科/1911年創立生徒数(2017年度) 831人(男子404人・女子427人)進路状況(2016年度実績)大学226人・短大3人・専門学校/各種学校17人就職2人・その他26人〒854-0014 長崎県諫早市東小路1-7 0957-22-1222 http://www.isahaya-highschool.ed.jp/わかるまで座らず生徒同士で学び合う※三角関数の定義については、菰田先生は「sinθは斜辺を1としたときの縦の長さ」「cosθは斜辺を1としたときの横の長さ」「tanθは直線の傾き」と解説している。572017 OCT. Vol.419

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