キャリアガイダンスVol.419
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HINT&TIPS個々に問題を解くときは、教室後方に解答を記し、見たい生徒だけ参照できる工夫も。立ち話学習では、わかったつもりで一度座るも、話し合うなかで再度立つ生徒もいる。発想の転換で解く問題では、数学が得意でない生徒が教える側に回ることも多いという。 菰田先生は、高校2年生まで文系だったが、「授業がわかりやすい」と感じる数学の先生に出会えたことで、数学の面白さに目覚め、3年次に理転。大学は数学科に進み、教師を志すようになった。 しかし、講師として一歩目を踏み出したとき、受け持ったクラスで3人赤点を出したことで、気持ちが揺らいでしまう。 「私立高校の採用の話もあったのですが、自分の力のなさを感じて、教師になるのをやめました。馬鹿なほど純粋だったんです(笑)。次に考えたのは個人塾を開くこと。少人数なら指導できるかなと」 両親はその決断に大反対し、一時は勘当状態に。それでも意志を曲げず、孤立無援の中、貯金を取り崩して塾を始めた。生活がかかっているので、小学1年生から高校3年生まで広く受け入れたという。 「小学校の算数から高校数学までを勉強し直すことになり、大変でした。ですが、そこでの学びが今の糧になっています」 菰田先生の塾はみごとに結果を出し、3年目には生徒数が80人まで増えた。 するとその実績を買われ、ある私立高校から「国公立大学に毎年10人以上合格させてほしい」という希望とともに改めて声がかかった。それに応じて、菰田先生はいよいよ教師の道を歩み出す。 さてその私立高校では、進学を目指す2年生の特進クラスでも、6月の模試の数学の平均点が22点という状況だった。数学に苦手意識をもつ生徒も多かった。 菰田先生は毎授業、丁寧な説明に努めたが、生徒の成績は伸び悩む。これではダメだ、と授業のやり方を抜本的に見直すことを決意。思いついたのが「板書中にノートを取らせない」ことだった。 「僕がまだ文系の高校生だった頃、数学の授業でノートを一生懸命取ったのに、自宅で見返したらちんぷんかんぷんだったことがありました。その体験を鮮明に覚えていたんです。板書をただ写すのは無駄ではないか。それよりも説明をしっかりと聞いてもらって、生徒がその場で思考を深められるようにしよう、と」 だが、黙って聞く授業は眠気を誘うことが判明。そこで言ったことを声に出して復唱させる「後読み」授業に発展させた。 それでもなおまどろむ生徒がいる。 ならば、しゃべりでうまく誘導し、これから板書することを生徒が予測して声に出す、という授業はできないか。先を読むためには脳みそを相当使うはずだ。 実現を目指して、生徒への問いかけや、板書の仕方、合いの手の入れ方を工夫した。そうして勤務5年目を迎えたとき、「先読み」授業の原型ができあがった。授業ができるまで赤点を取らせた自責の念で教師の道から一度外れる生徒が脳みそを存分に使う授業を目指して1小テストで数字だけ変えた難問を反復、「このレベルはできない」という壁を壊す小テストでは、難易度は高いが数字を変えただけの似た問題を、前任校(進路多様校)で5回、進学校の諫早高校では3回くり返す。1回目は解けない生徒が多く、菰田先生が10分以上解説。2回目も解けない生徒はいて、以降はできた生徒から教わる。回を重ねるほど苦手な子も正解し、皆が喜びと自信を得られる。2教師の「この前やったよね」は禁句とみなし毎回振り返りながら学習を進める「前に授業でやったことを、基本生徒は忘れている」というのが菰田先生の考え。だから、今日の学習のために欠かせない道具――基礎の知識や概念があれば、毎授業ごとに簡潔に説明、まずは生徒と振り返ったうえで本題に入る。必要であれば、小学校や中学校で習ったことを振り返ることもある。3「授業」「テスト」「模試」の結びつきを強め生徒の自信と主体性を伸ばす小テストや問題演習、定期テストでは、教科書の内容をそのまま出題せず、「これができれば模試でも点が取れる」形にして菰田先生は出題している。「模試重視」というより、「入試の試金石となる模試で点が取れた→自信がついた→もっとがんばりたい」という学びの好循環を生み出したいからだ。4生徒の成績低迷は教師の責任という自負をもち、態度でも示す1年生の最初の中間テストの前に、菰田先生は生徒にこう伝える。「ここまでよくついてきた。あとはもう心配するな。点が取れなかったら俺の責任」。そして実際に点が取れなかった子には謝る。模試が悪かった子にも謝る。成績低迷は、教師がその生徒の力や可能性を引き出せなかったためと反省する。 菰田先生とは授業改善プロジェクトでご一緒していて、先生同士で授業見学をする活動を進めています。前から菰田先生とは、「授業見学は廊下側からしたほうがいい」と話していたんですね。後方では子どもの顔が見えないので。今の授業見学では、先生を見るというより、見学者全員が座席表を持って、生徒一人ひとりを観察しています。先生のどんな働きかけに、どの子がどんな表情や言動を見せたか。その情報を共有し、授業改善に役立てるのです。 菰田先生の授業を見学して感じたのは、「課題設定がうまいから、生徒たちは飽きないし、目からうろこが落ちるような表情も見せるんだ」ということでした。そんな課題を出せるのは、ご自身が勉強家だから。数学に関する引き出しや蓄積がとにかくすごいんです。おそらく、この学校の誰よりも勉強していると思います。国語高比良周一先生生徒の表情や言動を先生みんなで観察して■ INTERVIEW582017 OCT. Vol.419

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