キャリアガイダンスVol.420
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作品作りをゴールとせず、美術を通して複眼的な視点で考える力を育てるではなく、次に何かやりたくなる、難しくても乗り越えたくなる授業を目指しています」 先生がこう考えたきっかけは、美術の教育研究会などに参加して、「その授業は生徒のためになっているか?」と疑問に感じたことからだ。すべての生徒が美大を目指すわけではない。「美術は才能やセンスだ」と生徒がつぶやく授業は失敗だと思った。美術科を通して学んだことが、将来、自分と社会に役に立つものでなければならない。 また、生徒たちの変容も気になっていた。ゆとり教育が導入され美術の時間が減ったころから、刃物などの道具が扱えない、素材を工夫して扱おうとしない、表現したいことが思い浮かばない生徒たちを目の当たりにしてきた。 「答えのある問題には意欲的でも、自ら感じ取り、考え、工夫する一連の力が弱くなっていると感じました。ものを見て感じ取る力、経験や知識をつないで工夫する力、筋を掴む洞察力を鍛える美術教育を考えました」 野村先生が考案したのは、作品作りを目的やゴールとしない多様な美術の授業だ(下記「授業デザイン」参照)。一例として、福井県では中学2年と高校1年で日本画に取り組んでおり、それを利用した授業を開発した。 先生が作成した題材名は「自分の感性を探ろう〜時空間を内包する襖絵」。襖絵は、その時代の美意識と生活や思想をつなげて読み解く素材だ。 「襖絵には例えば、『卯の方角(東)』に描く木だから『柳』など、仏教や陰陽五行などが日本文化として消化された解字や見立てなどを、古典や歴史の知識と関連させて味わう楽しさがあります。和室が身近でなくなりつつある生徒が、美術から日本文化を理解し、取材・文/長島佳子 ミニチュアの襖絵、サザエさん宅の模型と本格的な設計図や仕様書、生徒たちが書いた特許申請書…。高志高校の野村由香里先生の教員室からは、次々と興味深いものが出てくる。 「美術は心をワクワクさせる教科でありたいと思っています。ただ楽しいだけ教員歴32年。中学校、養護学校、高校で教壇に立ち、2011年から福井県教育研究所で「福井県造形教育研究会」発足に携わる。異校種間の授業研究の手立て「造形ユニット」作成。2013年高志高校着任。真善美を教育の柱とし、教育の意義が生徒に伝わる美術の授業づくりを心掛けている。「制作と同じように仕事も創造」と語る。美術教科と生徒の見取り感性を高めて美術で洞察力を付けたい見方・考え方目的をもって、複眼的な視点で観察する面白さ授業デザイン1948年創立/普通科、理数科/840人(男子452人・女子388人)/進路状況(2017年3月実績)大学274人、短大2人、専修3人、就職0人、その他59人学校データ日本文化の中で生活していない生徒たちに、自国の文化の成り立ちを意識させ、自分の感性と向き合う。お寺の襖絵が風水や陰陽五行に基づいて描かれている知識などを入れながら鑑賞。古典や歴史への興味、日本人の文化や美意識につなげたうえで、生徒自身の感性で襖絵の表現法で作品作りを行う。「人は思ったものになる」をテーマに自分の未来像を描く授業。自分の長所・短所を言葉で書き出してグループで共有し、他者視点でイメージしたことを比喩で本人に伝える。あこがれの人物や生き様も比喩で表し、それらの比喩からイメージされる「なりたい自分」襖絵から日本文化を学び、自分の感性と向き合う授業1自分の未来像を色と形で創造する2高志高校 (福井・県立)野村由香里先生美 術室町時代の襖絵を鑑賞し、額装の絵とは異なる動的な視線が生み出す時間と空間の表現や、日本文化の思想などを知る。登下校で美しいと思ったものから主題を考え、襖絵の表現法で構成する。襖絵のように三方に作品を配置し、Webカメラを使って空間にいる視点で鑑賞しあう。生徒の作品202017 DEC. Vol.420

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