キャリアガイダンスVol.420
23/66

「物理の教科書の読み方は、日常的な文章の読み方とは異なります。経験的にその読み方を体得している教師は、『読めばわかる』と言いがちですが、多くの生徒はその読み方からわからないのです。まずは、考える材料となる情報を正しく読み取り、論理的に考え、考えたことを伝えるという、『学びのスキル』を身に付けることが必要でしょう」 授業開きの4月、最初に行うのは、教科書を精読する方法の徹底指導だ(シーン1)。教科書の構造の意図や見出しの意味についての問答や、教科書生徒の声の音読などを行いながら、「章や節の見出しは究極の要約」というところから目次を確認。各章・節を学んだあとにそれぞれの見出しについて説明できることが目標であることを伝える。 また、論理的に考える定石作法と、考えたことを伝える技能として論述答案の書き方も指導。教科書の問題を用い、小竹先生の思考・答案作成プロセスを実演しながら、題意の読み取り方と論述の仕方を学習させている。 「学びのスキル」が身に付いてきた1学期後半からは、徐々に生徒主体の学習へとシフト。授業冒頭の10分程度で小竹先生の簡単な解説のあと、提示された問いに生徒が各自で取り組むというのが典型的な流れだ(シーン2)。 例えばある日のテーマは、「なぜ物体の運動エネルギーが1/2mv^2で表されると考えられたのか。なぜそれを知るために仕事を測定しなくてはならなかったのか」というもの。取り組み方に決まりはなく、教室の内外を使って、数人で議論したり、個人で調べたりする。スマホやタブレット端末の利用も自由だ。小竹先生は生徒の間を巡回しながら、質問や相談に応じる。最後に生徒の解答に小竹先生が解説を交え、考え方を共有する。 「既存の知識の組み合わせで新しい知識を生み出すプロセスを経験することを通して、知識を逐一教えてもらわなくても、自分が今持っているものから新しいものを生み出せるのだ、自分で自分をレベルアップさせることができるのだ、ということに気付いてほしいですね」 また、年3回程度、「唯一の正解」のないテーマにグループで取り組むプロジェクト学習も行う。昨年度の3学年は、2年間の物理の締めくくりとして、科学技術と文明社会との関わりについて、生徒が自由にテーマを設定し授業をプロデュース・実践した(シーン3)。生徒が授業を行い、そこから議論が広がる様子を見て、小竹先生は自身の想像をはるかに超えた力が生徒に育ったことを実感したという。 「教師は学ぶきっかけを与えただけですが、よく育ってくれたものです。考えること自体が楽しくなれば自ら学ぶということを、改めて感じました」 「絶対的に正しい」の危うさは、物理の世界の話だけではない。商品のキャッチコピー、うまい儲け話、政治家の言葉…自分で考えることなしに正しいものとして受け取るのは危険だ。 「生徒には、当たり前とされていることにも科学的な視点で見て、考え、妥当な判断ができる、『騙されない人』になってほしいですね」科学技術と文明社会との関わりについて、各グループが「デュアルユーステクノロジーと科学者の社会的責任」「『美しくなる』ために人体に手を加えることはどこまで許容されるか」などのテーマを設定し、1コマの授業を実施した。❸解答の共有小竹先生が出したヒントをもとに、生徒が思考プロセスと解答を記載し説明。「生徒による授業」プロジェクトシーン3小竹先生の授業は、なぜそうなるのかという裏にあるものまで理解して、その思考過程を学びます。それはすごく難しいのですが、考えていくうちに、原因と結果が自分のなかで繋がると「楽しいな」と感じます。進学後、物理を専門にする予定はありませんが、授業で身に付けた考え方や学ぶ姿勢はどの分野でも役立つと思います。私にとって物理はずっと「よくわからないもの」でした。それは今でも同じなのですが、なぜそうなるのか本質を見る授業なので、考えていくと意外とわかることもあります。公式を憶えればよい授業のほうがラクですが、それは塾でできること。ここで深く考えるトレーニングができるのは、よいことなのかなと思います。2学年・豊田浩太くん2学年・齋藤美佳さん原因と結果が自分のなかで繋がる瞬間が楽しい深く考えるトレーニングができる授業デザイン②知識を組み合わせ新しい考えを生み出す教科ならではの「見方・考え方」が社会でどう生きる? 授業で生徒が取り組むテーマの例図1●力学分野ではさまざまな物理量が登場したが、その中で人間が「直接」測定できる物理量は何か?(物理学では「見えない概念を可視化する」ことが重要な課題である) ●等速度運動は等速直線運動と同一であるが、等加速度運動は等加速度直線運動とはいえない。直線運動ではない等加速度運動の例をあげよ。 (定義・言葉を実感をともなって明確に理解しているか?)●「重い物体の方が地球の引力が大きいので『同じ高さから物体が地面に落ちるとき、重い物体も軽い物体も同時に落ちる』のはやっぱりおかしい」という人に、どう反論するか。 (学んだ法則を丸暗記して新たな妄信の対象としてはいないか?)小竹先生の教科書には、読解のポイントや解釈の仕方がびっしり書き込まれている。小竹知紀先生(物理)「見方・考え方」を働かせる授業232017 DEC. Vol.420

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る