キャリアガイダンスVol.420
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 その点でいうと私は、楽しい授業をすることに傾倒しつつも、同時に「アドバンス(前進)のある授業」にもしたいと思っていて、両方が成り立つ授業をずっと模索してきました。 例えば、「どうすれば紙を三等分に折れるかやってみよう」という遊びから始まる授業でも、そこで生徒が考えたさまざまなアイデアを数学的に表現していけば、本質的で深い学びに結びつけることができると思うのです(36ページの写真参照)。 かつて勤務した学校で生徒が因数分解を嫌ったときは、「田んぼ算」を活用しました(37ページの写真参照)。視覚的にとらえてパズルのように解くこのやり方だと、生徒も食いついたんです。 田んぼ算については否定的な見方をする先生もいます。因数分解は教科書で習う公式をしっかりと覚えれば、よりすんなりと解けるからです。 けれども、公式だけをたたきこむ授業が目の前の生徒にとって「わからない」「楽しくない」ものになっているなら、それを見直す価値はあると私は思います。しかも、そうした工夫で生徒に「わかる」「楽しい」という感覚がもたらされると、本人がその先の世界をのぞきだします。 手作りした田んぼ算のテキストでは、このやり方で(x2+5x+6)÷(x+1)といった割り算や、二重根号を外すこと、ベキ展開、3次対称群の乗積表の作成もできることを紹介したんですね。後半はもう高校数学を超えるわけですが、生徒が解くのを楽しんでいくと、数学が苦手な子ばかりの学校でも、クラスで何人かは全部できるところまで到達できたんですよ。 そこまではいかない生徒でも、数学の見方・考え方が以前より働くようになったのを実感したこともあります。因数分解の問題の解答欄にうんちの絵を書いた生徒なのですが、彼は卒遊びから始まるような授業を本質的で深い学びにつなげたい「楽しい学び」と「深い学び」は両立するのではないかあなたならどう答える?今授業でやっていることって何の役に立つんですか? 生徒からこうした質問をされると、昔は例をあげて、こんなにも役立つんだぞ、と力説していたんですね。例えば、カメラのレンズ光の取り込みを表すF値は焦点距離/レンズ直径といった分数式で出るんだよ、金融工学でも微分方程式を使うんだよ、といったように。 ですが、じゃあ、役立っていることがわかれば生徒たちは懸命に勉強しだすかというと、そんなことはなかったんです。生徒が求めていたのはこうした答えじゃないんだな、と段々わかってきましてね。どういうことか。「なんの役に立つ?」という質問の裏に隠されていたのは「授業が面白くない」「わからない」というメッセージだったんです。 生徒たちは「楽しい」「面白い」と思えば、将来役立つかわからなくても、やってみようとします。そうして自らやってみるなかでつかみ取った数学的な見方・考え方が、結果として、社会に出てからも活きてくるのです。 ですので私は、どう役立つかを説明するのもよいとは思いますが、それ以上に、数学そのものへの生徒の興味・関心を高めることを大事にするようになりました。382017 DEC. Vol.420

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