キャリアガイダンスVol.421
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HINT&TIPS 永井先生は、子どもの頃から教師になりたかったという。ただ、最初から家庭科の教師を目指していたのではない。自身の高校時代、家庭科は女子のみ必修で、同じ時間に体育の授業を受けている男子を羨んでいた。家庭科の授業には身が入らず、通知表に欠点がついたそうだ。 「本当は他教科の教師になりたかったのですが、家庭科を選んだのは、目指していた大学の中で、自分の試験の点数で入れそうな教育系学科だったからなんです」 受験の挫折感がぬぐいきれず、しばらくは無為な学生生活を過ごしていた。 転機は、大学3年生のときに訪れる。 その年に、次期学習指導要領から家庭科が男女共修になることが決まった。そんな折りに、永井先生はゼミで読んだ海外の家庭科の教科書に衝撃を受ける。「TEEN GUIDEという教科書で、『あなたは自分のことをどう思っている?』というリレーションシップ(関係)の章から始まるんです。男女共修でこういう家庭科ならぜひやりたいと思いました」 そこから家庭科を本気で学び直し、大学院の修士課程を出て、教師になった。 初任校には家政科があり、その学科の生徒に限っては、将来の職業を見越して、保育所や高齢者施設での実習が行われていた。あるとき、永井先生は思う。 「乳幼児やお年寄りと関わることは、誰の生活にでも起こりうることでは?」 だから、異世代と関わって学ぶ機会は、すべての生徒にあってほしいと考えた。そこで近隣の市町村役場や保育所、20カ所に自ら連絡して交渉。普通科の生徒も、家庭科の授業の一環で、保育所や高齢者施設を訪ねて交流できるようにした。 さらに永井先生は、出産した知人と赤ちゃんを招き、生徒が乳児とふれあう授業も始める。その後、地域の子育て支援センターに相談、授業に来てくれる親子を毎年紹介してもらえる体制も整えた。 つまり、さまざまな体験の場を自ら開拓したわけで、その姿勢は2校目の工業高校でも、3校目の現・砺波高校でも変わっていない。他者と関わって五感で感じることが「他者理解、ひいては自己理解につながる」との思いがあるからだ。 一方で、永井先生は大学教授や家庭科の先生との研究会にも参加していく。そこで学んだのは「生徒が生活の身近な題材から」「ひと・もの・ことを取り巻く課題を認識し」「その改善や解決を主体的に考える」ような授業のあり方だ。 2015年には、富山県教育委員会の事業として、ライフプランを考える副教材を他の家庭科の先生らと制作。地元の高校生向けに、富山で暮らす良さにふれつつ、「でもその価値観を押し付けず、いろいろな情報の中から生徒が自分で生き方を選び取れるようにしよう」という方針の下、議論を重ねて冊子を完成させた。授業ができるまで好きじゃなかった家庭科のイメージが一新された日異世代と関わる場を開拓生徒の他者・自己理解を促す 永井先生とは、砺波高校に異動される前まで、本校でご一緒していました。工業高校なのですが、担任したクラスについて家庭科の授業の話を耳にすることが結構あって、傍から見てもエネルギッシュに取り組まれているのがわかりました。乳幼児とその親を呼んでの授業とか、お弁当コンクールとか、車椅子体験とか。 共感したのは授業の目指す方向性です。僕の教科は数学ですが、目先の試験に備えるだけの授業ではなく、人生を送るうえで大切だと思うこと――例えば思考力や協働する力を育めるような授業をしたいんですね。永井先生の家庭科の授業は、生活の身近なテーマを基に、そうした生きる力を伸ばす授業だと感じたのです。 授業のほかに、学校行事や部活動にも熱心でした。さまざまな学校の活動全体を通して、生徒と向き合う先生だと思います。砺波工業高校数学池端正樹先生人生を送るうえで大切なことを生徒が考えて学べるような授業を■ INTERVIEW1生活について空間軸(家庭→地域→世界)と時間軸(過去・現在・未来)をもって思考する永井先生の授業の特徴は、生活について家庭から世界、過去から未来まで見すえていくことだ。例えば衣生活領域では、昔もこの先も自分または誰かが担うことを前提に基礎の裁縫を学び、座学では衣服の原産国や児童労働のことも考える。生徒にとっては未来の社会のあり方を考える第一歩になる。2教えるのではなく生徒自身が体験・思考し、毎授業「何を学んだか」を言語化する生徒には「家庭科に正解はない」と伝え、衣食住ほか生活をどうしたいかは、体験学習や生徒同士の議論から自分で考えてもらい、そこでの学びを最後に自由記述させている。前任の工業高校でも砺波高校でも、これをくり返すほど生徒の思考は深まり、社会のことにも目が向くようになったという。3高い要求や視野を広げるトピックで揺さぶり生活の課題と自分の成長を感じさせる調理や裁縫の実習では「納期を守って良品を作る」ことをあえて要求。座学では、生徒から意見を募ったあとで視野を広げるトピックを提示、さらに話し合ってもらう。生徒が生活の課題に気付き、そこに挑戦したり思考を巡らしたりすることで自分の成長を感じる。そんな体験をしてほしいからだ。4ふれあう・話し合う・協働するなど他者と関わる場面を意図的に増やす異世代とふれあう体験学習や協働での調理実習のほか、永井先生は座学の授業でも「グループの中で一番手が大きい人が発表」などと生徒同士が関わる場面(手の大きさ比べなど)を意図的に作っている。他者と関わる、それも五感で感じることが、他者理解・自己理解につながると考えているからだ。異世代とふれあう授業では、生徒たちの優しい表情や笑顔に永井先生自身が胸を打たれるそうで、だから写真をたくさん撮って、家庭科室の廊下側の壁に貼り出すようになった。602018 FEB. Vol.421

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