キャリアガイダンスVol.421 別冊
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3Vol.421 別冊付録うことでもある。「先生に言われたから叱られないようにやる」「いい成績が取れるからやる」という外発的な動機ではなく、その対象そのものへの関心や知的欲求に導かれるということだからだ。 社会の変化と求められる能力の変化主体性が求められるようになってきた なぜ、主体的であることが重要なのか。それは、21世紀の現在において、実際に社会に出てから必要とされる能力の一つだからである。 日本の高度経済成長期に対応する産業社会では、社会に出てから求められる能力は、多くの場合は作業の正確性と効率性だった。したがって、高校までの教育も「知識・技能」を正確に身に付けることが主眼とされてきた。そして現在では知識偏重が指摘される大学入試も、この「知識・技能」が重視される社会に適合的であったということができる。 しかし、21世紀の今日では知識基盤社会が到来している。現在の知識基盤社会と呼ばれる社会では、「多様性」「意欲・創造性」「個別性・個性」「能動性」「ネットワーク形成力・交渉力」などが新たに求められるようになってきている(図2)。 これは日本だけではなく世界的な動きであり、OECDがキー・コンピテンシーの概念を発表し、PISA型学力調査のプログラム開発を始めたのは1997年のことだが、その背景として、テクノロジーの急速な発展によって社会の変化が激しくなったため、社会で求められる能力も基礎学力のように1回修得すればそれで終わりとはならなくなったことがある。新しい知識や環境の変化への適応力、他者との相互依存の強まりのなかでの対人関係を調整する力、課題の複雑化のなかでの解決能力などは、生涯にわたって自ら学び続けることで培われる。 これらの能力を育成することを視野に入れて、学力の三要素の「思考力・判断力・表現力」や「主体性・協働性・多様性」が設定され、それを育むものとして「主体的・対話的で深い学び」が位置づけられたのだ。【京都市立堀川高校】興味を課題に落とし込み知識的裏づけのある問いを立てる では、主体性とはどのように育まれるのか。教員が生徒に対して「主体的になれ」という言葉をいくら呪文のように繰り返しても生徒の「主体性」が身に付くわけではない。生徒が主体性を身に付け、探究活動において「問い」を立てることができるようになるには、それを意図した仕掛けとプロセスが重要なのである。 そのヒントを、探究活動で成功している高校の取り組みのなかから考えてみよう。 京都市立堀川高等学校は探究活動を中心に生徒の学力を飛躍的に伸ばし、「堀川の奇跡」として知られる。 探究活動ではHOP.STEP.JUMPの3段階が設定され、まず第1段階のHOPとして、生徒は1年前期にクラス単位の活動で「探究の『型』を学ぶ」。証拠集めの方法や引用の仕方、他の可能性を捨てること、論文の書き方などとともに、「漠然とした興味を具体的な課題に落とし込む方法」を学ぶことが注目される。 第2段階のSTEPは「探究の『術』を身につける」であり、1年後期から「ゼミ」が開かれ、クラス単位ではなくゼミ単位の活動に移る。ゼミは自然科学、人文科学、社会科学の分野から8~9のテーマを選択し、グループによる探究活動に取り組む。ここで専門的なより深い知識を身に付けるのである。 そして、第3段階のJUMPにおいて「探究の『道』を知る」として、2年生の前期に全員がゼミを基盤としつつ各生徒が自ら問いを立てて個人研究を行う。そして全員がポスターで発表し、その後に論文にまとめる。 総仕上げ段階の2年の探究活動を個人研究にしている理由は、将来の大学や大学院、あるいは社会に出ての研究活動では、個人は大きなプロジェクトの一部のみを担うことになる可能性が大きく、高校時代に全プロセスを一通り自分自身の手で経験しておくことが重要だと考えているからだ。 また、論文→発表という順序ではなく、ポスター発表→議論→論文という通常とは逆の順序にしているのは、ポスターセッションやゼミでの議論を論文に反映させて完成度を高めるためだ。 堀川高校の探究活動のもう一つの大きな特徴は、生徒による探究基礎委員会が組織され、重要な役割を担っている点だ。探究基礎委員会は1年生では1クラスに4人、6クラス合計でおおむね24人で構成されている。 1年生も2年生も各学科ごとの委員長が中心となって、構成される運営班が中心となって、生徒に働きかけるためのプロジェクトなどが自主的に立ち上げられる。 このように生徒が主体的に取り組むためのさまざまな仕掛けが用意されているが、ここでは次の点を強調しておきたい。すなわち、最初に興味を具体的な課題に落とし込むことを学び、次に課題に取り組むために必要な専門的な知識を身に付ける。そうして自ら問いを立てて探究し発表するというプロセスである。このプロセスによって、単なる興味から問いへと、そして問いをよ図2 21世紀に求められる能力※『多元化する「能力」と日本社会 ―ハイパー・メリトクラシー化のなかで』(NTT出版 本田由紀)より作成【産業社会で求められる能力】● 基礎学力 ● 標準性 ● 知識量・知的操作の速度● 共通尺度で比較可能性 ● 順応性● 協調性・同質性【知識基盤社会で求められる能力】● 生きる力 ● 多様性 ● 意欲・創造性● 個別性・個性 ● 能動性● ネットワーク形成力・交渉力

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