キャリアガイダンスVol.422
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 2020年に開校予定の幼・小・中混在校、軽井沢風越学園に、共同発起人の一人として名を連ねたことで、そうした理想の教育を具現化する機会が訪れました。理事長は、楽天の創業メンバーで副社長退任後、長年教育に携わってきた本城慎之介さん。副理事長は、公立小学校等で学習者中心の授業づくりに取り組んできた岩瀬直樹さんです。実は、「方法のパッチワーク」や「学びのコントローラー」というフレーズは、岩瀬さんからの拝借です。 その岩瀬さんは若い頃、話術と授業内容で子どもたちを引き付けるカリスマ的な教師を目指していたとのこと。事実、評判の高いクラス運営をしていましたが、異動した途端、そのクラスが少し荒れてしまったことがあったそうです。子どもたちは口々に「新しい担任はつまらない」と文句を言う。それを聞いて、彼は間違いに気付きます。「自分は、口を開けて美味しいエサを待つだけの子を全力で育てていたのだ」と。それが学びのあり方を見直すきっかけになったという話に私は強く心を打たれました。そんな方たちと理想を実現できるのはありがたい話人は恐怖や不安では動かない。エロスで動くんですです。 本格的な準備はこれからですが、同校では、「学びの個別化・協同化・プロジェクト化の融合」を、「自己主導の学び・協同の学び・探究の学び」と言い換えて、カリキュラムの中核に据える予定です。ティーチングも重要ですが、1時限まるまる一斉授業にすることはないでしょう。さらに、「探究」を一番の中核にすることで、自由に生きるための力を育み、相互承認の感度を育みたいと思います。 失敗も繰り返すでしょうが、目指すのは10年後、20年後の教育の「普通」。行政や他の多くの学校などとも連携し、全国の学校のモデルにしたいと思っています。 「なぜ今、教育改革なのか」と語られるとき、よく引き合いに出されるのが、「AIで仕事がなくなる」「子どもたちの6割以上は今は存在しない職業に就く」といった言説です。そうした危機感をもたせることも大事ですが、煽り過ぎるのも疑問です。思うに人は、総体的に見て、恐怖や不安では動きにくい。どちらかというと、「こうすれば、わくわくする未来が開ける」と感じたときのほうが動くと思うの今の学校に足りないのはエロス。わくわくする気持ちを大切にです。 そうしたわくわく感や喜びのことを哲学ではエロスと呼びます。今、学校に足りないのは、このエロスではないでしょうか。次から次へとやってきては、押し付けられるように感じてしまう教育改革の波に、どんよりした空気が漂っているのは大学も同じです。 その一方、形式的な研修や講演では反応が薄いのに、「こんな教育のあり方っていいよね」や「どんな子に育ってほしいか」から始まり、「そもそもなぜ教師を志したのか」まで、赤裸々に語り合う場を設けた研修では、先生方のエロスが掻き立てられている姿をよく目にします。 今後、探究型の学びが主流になれば、先生自身も、自分なりの問いを立て、自分なりの答えにたどりつく探究活動が大事になるでしょう。学びを仕事とする先生方にとって、わくわくしないはずがありません。そうやって学校全体が学びのエネルギーにあふれた場所になる。そこに、地域の人たちや小・中学生、留学生などが集い、多様性がごちゃまぜのラーニングセンターのようになればなおさらです。多様で異質な人々が、互いを承認し、それぞれの知恵をもちよって教育をより良いものにしていく。これも学校のあるべき姿だと思います。これからの「普通」を目指し軽井沢風越学園を立ち上げ個人として、組織として 学校改革にどう取り組む?教育哲学からの提言 苫野一徳112018 MAY Vol.422

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