キャリアガイダンスVol.422
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 岩手県南部にある県立前沢高校。どんな学校か、ひと言で表すのは難しい。この10年足らずの間にも、さまざまに変化してきたからだ。 かつて授業の成立すら困難だった状況から、キャリア教育の充実と地道な生徒指導により、数年かけて落ち着いた学校となった。一方で生徒数は減少が続き、2015年度から学年2学級規模に縮小。さらにはその年の12月、岩手県教育委員会は「新たな県立高等学校再編計画」を発表し、19年度から同校の学級数を1クラスとする方針が示された。これが、新たな変化を起こすきっかけとなった。 同校は16年度から、学校の規模縮小への対応と、新たな学校の魅力の創造を目指す「前沢高校活性化プロジェクト」をスタート。これは単なる生徒集めが目的ではないと、昨年度校長・里舘文彦先生は語る。 「本校の学校改革は、学校の枠組みの維持だけでなく、生徒たちがこの学校でよかったと言って卒業できる学校であるためです。その共通認識の下、先生方一人ひとりが動いています」 活性化に向けてまず取り組んだのは、現状とニーズの把握だ。生徒、保護者、教職員、同窓生にアンケートを取り、「前沢高校に対するイメージ」「どのような学校であるべきか」「必要な取り組みについてのアイデア」などについて意見を収集。また、近隣の中学校23校を訪問し、直接、同校に対する意見や要望の聞き取りを行った。さらには、教職員は教員研修会、生徒は特別授業にて、学校活性化をテーマとしたワークショップを実施し、それぞれができることについて意見を出し合った。 半年間にわたるこうした取り組みから見えてきたのは、生徒同士および生徒と教師の距離が近いという小規模ならではの特長や、学校の良さが周囲には見えにくいという課題、そして授業に対する期待の高さなどだ。それが、アクティブ・ラーニングの導入をはじめとする授業改善、あるいは中学校訪問やSNSを活用した積極的な広報戦略の重点化につながった。また、教育活動の成果を検証し修正を繰り返す、カリキュラム・マネジメントの必要性が確認された。 「選ばれる学校」となるためには、通学圏内にあるほかの普通科高校にはない独自性も必要だ。そこで、今いる生徒たちをいかに輝かせるかという観点から、「どの生徒も安心して学び成長できる学校」という特色を打ち出した。副校長・千葉 貢先生はこう語る。 「本校には、成功体験があまりなく自信をもちにくい生徒が多数います。また、不登校経験者や、学習面・コミュニケーション面で支援の必要な生徒も少なくありません。そういう子たちも含め、どんな生徒も受け入れ、安心して3年間が送れる学校でありたいと考えました」 そのための具体策の一つは、学校ぐるみで行うボランティア活動だ。その発端となったのは、16年12月、同校生徒27人が参加した近隣の支援学校のクリスマスコンサート。支援学校の子どもたちに喜ばれ、「帰らないで」と追いすがれつつ帰ってきた同校生徒の表情が、これまでになく生き生きしていたという。 「『この世で最大の不幸は誰にも必要とされないと感じること』というマザー・テレサの言葉がありますが、人の役に立って必要とされるということが、こうも自己肯定感を高めるのだということを実感しました」(千葉副校長) 17年度、2学年全体でLHRの時間を活用し、地域ボランティアを核としたプログラムに取り組んだ(図1)。生徒は二手に分かれ、2日間にわたって障がい者と共に働く体験や、小学生の見守り体験を実施。そこで得た実感値を基に、地域の福祉において自分たちにできることについて話し合った。取材・文/藤崎雅子枠組み維持のためだけでなく生徒のための改革に着手幅広い視点から現状把握し授業改善や広報強化へ学校全体で地域ボランティア誰かの役に立つ経験をする1925年創立/普通科/生徒数137人(男子72人・女子65人)/進路状況(2018年3月実績)大学5人・短大2人・専門学校12人・その他進学3人・就職20人[学校データ]学級減の危機を機にどの生徒も自己肯定感をもてる学校へ校内外で連携し支援体制を整備生徒の資質・能力をどう育んでいくか。そのために学校としてどのように取り組んでいるのでしょうか。それぞれの学校の置かれた現状から、先生方の奮闘、今見えてきた成果まで、4つの事例をレポートします。162018 MAY Vol.422

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