キャリアガイダンスVol.422
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るんですね。もちろん、それも大事なことです。ですが、学校教育には本来、子どもたちの公共性を育む役割もあったと思うのです。社会の担い手になるうえでも、学校の勉強は役立つよ、ということまで伝えていきたいと思っています」 そのために公民科の授業で、黒崎先生が強く意識していることがある。 教科書で現代社会の仕組みなどを学んだあとで、「習得した知識や概念を、実社会に近い文脈のなかで活用・探究する」機会まで授業の中に設けることだ。 例えば「模擬投票」。 神奈川県では、政治参加する市民を育てようと、2010年度より参議院選挙のたびに、全県立高校で模擬投票を行っている。黒崎先生はこの取り組みを1年生の「現代社会」の授業で行っているが、ただの体験イベントで終わらせないよう、全体構成を工夫しているのだ。事前学習を充実させることで、「学んだ基礎知識を役立てて投票先を考える」というプログラムに落とし込んでいる。 あるいは「模擬裁判」。 架空の民事訴訟について、班ごとに「原告側の弁護士」「被告側の弁護士」「判決を下す裁判官」の役に分かれて討論する生徒を見取って授業をデザイン社会課題や政治に無関心になる一因には、「自分では何も変えられない」と感じていることがあると思われます。そうした悲観的な気持ちを、教育の力で払拭したいと考え、試行錯誤を続けてきた先生の実践をご紹介します。取材・文/松井大助撮影/平山 諭 神奈川県立瀬谷西高校には、勉強に苦手意識をもち、「自分には向かない」と思い込んでいる生徒が少なからずいる。それだけに、授業で学んでいることが何につながるのかわからないと、あからさまにやる気を失うことがある。黒崎先生はそうした生徒たちに、「学校で学んでいることって役立つんだ」という実感をもたらしたいと考えている。それによって、生徒の学ぶ意欲を高めたい、とも。 では授業で学んだことは、現在および将来に具体的にどう「役立つ」のか。 想定している一つは「私的な領域への参加」ができるようになることだ。 「自分で職業を選んで専門性を発揮できるようになることや、一人暮らしや子育てをできるようになることですね。キャリア教育と重なる部分が大きいと思います」 もう一つ、「公的な領域への参加」ができるようになる意義も感じてほしいという。 「選挙で自分なりの考えをもって候補者を選んで投票できるようになることや、地域の課題解決にその住民として関われるようになること。シチズンシップ教育といえると思います。今の学校教育は、学びを『私的な領域』に役立てるほうに寄りすぎていないかな、と思うことがあ瀬谷西高校(神奈川・県立)自分のキャリアだけでなく公共のためにも学んでほしい実社会に近い文脈のなかで学んだ知識を活用する大学院卒業後、高校教師に。初任の湘南台高校および現在の瀬谷西高校で、公民科の授業だけでなく、総合的な学習の時間を活用したシチズンシップ教育やキャリア教育に取り組む。中央教育審議会「高等学校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム」に委員として参加。社会科黒崎洋介先生生徒に対する想い授業の実践562018 MAY Vol.422

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