キャリアガイダンスVol.422
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HINT&TIPS 黒崎先生が教師になったきっかけは、中学生や高校生のときに、魅力的な社会科の先生に恵まれたことだった。 「社会のことを考える面白さや、『そういう視点もあるのか』と気づきをもたらしてくれた、というか。教育のもつ公共的な役割にも惹かれるようになりました」 教師を目指していた大学院生時代には、知識の活用というテーマにも興味をもつ。 「例えば作文用紙を1枚配り、習ったことについて自分の意見を書きなさい、と指示しても、それだけでは書けない子がいます。習得した知識をどうやって使うのか、思考力や判断力、表現力をどう育めばいいかを考えるようになりました」 その院生のときに実習で向かったのが、のちの初任校でもある湘南台高校だった。同校は当時、シチズンシップ教育の研究指定を受けていて、政治参加や司法参加を促す教育実践を推し進めていた。 黒崎先生はそこで、ほかの先生や外部の主権者教育の専門家と一緒に「模擬議会」のプログラム開発と実践に携わる。生徒たちが、ニュースに出てくるような国や地域の旬の議案について、本物の議会と同じように自分たちで審議・採決することを体験するプログラムだ。 実施したのは1年生の総合的な学習の時間。最初に政治参加の意義や議会の仕組みを学び、そのあとで「太陽光発電」「消費税の増税」「ゴミ袋の有料化」といったテーマについて、クラス内で生徒たちが与党と野党に分かれて議論した。 結果、生徒たちの現代社会の仕組みに対する理解は深まり、政治への関心も高まった。また、一連の言語活動を通して、思考力や表現力を鍛えることもできた。黒崎先生は、学校で学ぶことと実社会のつながりを実感できるシチズンシップ教育に大きな可能性を感じるようになる。 晴れて教師になって湘南台高校に赴任してからは、他教科との連携も模索した。例えば「太陽光発電」について検討する際は理科の知識も活用できる。また、総合学習で学んだ議論の仕方は、ほかの教科のグループワークでも生かせるはずだ。 「総合で学んだことを各教科で使い、各教科で学んだことを使って総合で考える。体系的なカリキュラムまではできませんでしたが、そうしたことに取り組みました」 5年の勤務を経て、昨年度より瀬谷西高校へ。今目指すはその発展系。「公民の授業だけでなく学校全体で取り組む」キャリア・シチズンシップ教育だ。授業ができるまで学校で学んだことを実社会で活用できるように 黒崎先生とは湘南台高校で一緒でしたが、彼と当時の校長先生とはよく話題にしたテーマがあります。社会のあり方を自分たちで考える主権者の育成を、すべての教育活動で目的にできないかと。 例えば、物事に対して教科特有の見方・考え方を働かせられるようにすることも、主権者育成のために全教員でできることだと思うのです。理科の教員である私は、量的・関係的、共通性・多様性などに着目する視点などを育み、社会の教員は、歴史的な時間や国際的な関連性に着目する視点を育む。一つの現象を多面的・多角的にとらえられるようになれば、「テレビが言ったから」「偉い人が言ったから」ではなく、生徒が自分で物事を考えられます。 自ら問いを立て、その課題に粘り強く取り組み、新たな考えを創造する。学校全体でそうした力を生徒に育んでいきたいのです。秦野曽屋高校(神奈川・県立)理科齋藤昂良先生多面的・多角的な見方・考え方を実社会を意識して全教員で育む■ INTERVIEW裁判で主張するための法的根拠をまとめるときは教科書が大活躍。表現の自由や知る権利などについて確認するために、教科書を見直して読み込む姿がそこかしこで見られた。模擬裁判に向けて原告・被告の主張を考える際はワークシートを活用。主張のあとで理由(根拠)を述べて、最後に改めて再主張するという構成になっている。1実社会で直面しうる課題を生徒に身近な具体例に置き換えて問う実社会の課題を考えるとき、黒崎先生は生徒に身近な具体例に置き換えて問う。多数決で見落とされる問題を考えるなら、「文化祭の出し物。お化け屋敷・フランクフルト・焼きそばで多数決を取ったらお化け屋敷が最多票に。これで決定でOK?(三択以上の多数決は似た意見の支持が分散する)」などと。218歳の段階で何ができるようになるかという観点での授業・カリキュラムづくり黒崎先生は、教育活動によって卒業までに何ができるようになるかを具体的に思い描く。選挙で自分の視点で候補者を選べる、面接で意思を表現できる、などだ。そしてそのために必要な知識や能力を習得・活用できる授業を構想する。瀬谷西高校ではこれに組織的に取り組む授業研究会も発足した。3教科横断的なカリキュラム・マネジメントで効果的な知識習得や資質・能力の育成を知識の習得から活用までする授業は増えたが、各教科個別の実践になりがちだ。でも、ある教科の知識を他教科の授業でも使えたらより頭に入るし、思考や議論の型は、どの授業でも活用できたほうが身につく。だから黒崎先生は、教科横断で皆で授業構想を練ることをさらに進めたいと思っている。4知識の習得は大事という認識の下さまざまな手法での定着を目指す社会のあり方を自分たちで考え、話し合い、形づくるには、基礎知識の理解も欠かせなくなる。だから黒崎先生は授業での知識習得も大事にしている。ただし、習得のための手法はいろいろあると考えていて、講義や穴埋めプリント、生徒の活動による知識習得などを組み合わせて取り入れている。582018 MAY Vol.422

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