キャリアガイダンスVol.423
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 知識やスキルだけでなく、一人ひとりの内面の発達にもっと目を向けていく必要があるのではないか。そうした反省が基となり、職業学科開設から3年が経ったころ、大きく2つの新たな展開が生まれることとなった。 その1つは、「デュアルシステム」の実践方法の見直しだ。「職業教育」ではなく本質的な「キャリア教育」の視点で、3年間の「デュアルシステム」に「働くことの基礎・基本を学ぶ」「自分の得意・不得意、課題について理解する」など4つのステージを設定し、学年進行ではなく、個々の状況に合わせて、段階的にキャリア発達を促すこととした(図1)。 最初は「仕事になじむ」ことをテーマに、短期間の実習から開始。徐々に期間や難易度を上げ、苦手な分野を含む多様な職種にも挑戦する。3年生になると就労を前提に長期実習に取り組む。こういった実習を行いながら、キャリア発達のステージを上がっていくのだが、そのステージが上がるタイミングは人それぞれだ。そこで、一人ひとりの歩みの違いに合わせて進んでいくためのツールとして「キャリアデザイン」というシートを開発(図2)。これに生徒は企業実習の振り返りと、実習で気付いた課題を学校の学びでどう解決していくかの記録を蓄積していく。 それまでも同校には「キャリアプラン」(個別の包括支援プラン)というツールがあり、教員が各生徒について本人・保護者・指導者の三者の願いや目標を記入し、指導・支援に役立ててきた。それとの大きな違いは、「キャリアデザイン」は生徒自身が作成する点にある。生徒が自分の成長の節目を意識しながら、自らの意思で行動し、判断し、課題解決していくための仕掛けだ。 生徒主体の「キャリアデザイン」を軸に、企業実習と学校での学びの往還のなかで、生徒の成長を図っていく。その基本的な流れはこうだ。 まず、生徒は担任と一対一で、実習の目標や課題を確認したうえで企業実習に臨む。実習後は「キャリアデザイン」の「振り返り」欄に、「作業スピードが上がった」などのできるようになったことや、「丁寧にやり過ぎて時間がかかる」などの課題を記入。その課題を学校の授業のなかでどう対策していくか、生徒自ら関連する教科の教員のところへ相談に行って、「学校で学ぶ」欄に「皆と同じペースに合わせる」などの活動目標を書き込み、その点に意識しながら授業に取り組む。そして、次の企業実習では、その課題がクリアできるかを検証し、再び「キャリアデザイン」で振り返りを行う。 こうした新「デュアルシステム」の流れの要は、企業実習前後の節目ごとに教員がじっくり対話を行うことだと、副教頭の藤林真紅先生は言う。 「生徒が自分の良いところや課題を押さえて、次の実習や教科学習の意図を理解して臨むことがとても大事です。担任も一緒に悩みながら、『前の実習ではこうだったよね、今度はどうかな?』といった具合に、生徒の気づきを促すよう取り組んでいます」 こうした対話は、教員の生徒への向き合い方を変えた。 「教員は自分の価値観でこうあるべきだという指導をしがちですが、生徒が主体となる『キャリアデザイン』を中心に置くことで、生徒自身の問題意識や気づきを引き出すことに自然と力を注ぐことができるようになったと感じています」(森脇元校長) 職業学科初期の反省は、もう1つ、地域協働活動の充実にもつながった。そのキーワードは自己肯定感だ。 子どもたちが生活する地域との関係性を重視する同校は、開校当初から「地域に開かれた学校づくり」に力を入れていた。職業学科設置時、校内に喫茶室を開店したのも、生徒の学習のためだけでなく、地域の人が気軽に学校に足を運ぶ仕掛けでもある。そうした下地があり、07年のある日、地域の側から同校へ、高齢者体操教室の開催会場として施設を使わせてほしいとの依頼が入った。同校は即決で引き受け、単に会場提供するだけでなく、生徒も会場準備や受付、インストラクターの補助などで参加した。学校が地域から「必要な場」、生徒が支援対象ではなく「必要な存在」へと変わっ生徒が主体的に課題に向き合い自分なりの進み方で成長「ありがとう」のシャワーで自己肯定感を育む図2 「キャリアデザイン」の活用「キャリアデザイン」全体像(教員指導用)。ステージ1~4までを見通せる。「企業で学ぶ」欄。実習の振り返りを記入「学校で学ぶ」欄。実習を受けて学校で何を学ぶか記入し、担当教員に確認のサインをもらう各生徒の「キャリアデザイン」を教室内に掲示。個々の生徒の課題やその対策をクラス内で共有し、お互いに刺激をもらう。実習から「手が空いたら何をするか考える」「メモを取る癖を付ける」などの課題に自ら気付いている。482018 JUL. Vol.423

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