キャリアガイダンスVol.423
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HINT&TIPS 石井先生が教師を目指したのは、吹奏楽部の顧問になりたい、と思ったからだった。中学・高校時代は吹奏楽部の部長。仲間と話し合いながら演奏をまとめあげることに苦戦するも、その体験を通して自分たちが成長できたのも感じた。今度は自分が、そうした生徒たちに「寄り添っていく顧問」になりたいと思ったのだ。 音大卒業後、2年間、非常勤講師を務める。うち1校は、教室に行くと、生徒が立ち歩いていたり、お化粧していたり、お弁当を食べたりしている学校だった。 そこでの経験が今に生きているという。 「生徒たちが自分の感情に素直だったんです。楽しいと感じれば心から音楽を楽しむし、嫌なものは嫌。この子たちの興味をどうすれば引き出せるか考えました」 そのなかで、生徒から好きな曲を募り、それを聴いて感想を出し合ったり、創意工夫して歌うことに挑むと、普段は座学を嫌がるような生徒も自ら考え、意見を出すようになるのを目の当たりにする。石井先生の授業では、生徒が楽しいと思える音楽を自分たちで考え、発信し合って形にしていくことを志向するようになった。 正規採用となり、まず配属されたのが特別支援学校。肢体不自由で一日の大半を横になって過ごす生徒や、目が見えない生徒や耳が聴こえない生徒と向き合った。 「恥ずかしながら最初は、この学校で自分に何ができるのかわかりませんでした」 複数担任制のもと、生徒の卒業後の自立を見すえて、幅広い活動に携わることになった。トイレや車椅子の使い方を身につけるための支援。音楽や運動にふれて余暇の楽しみ方を学んでいく取り組み。 音楽の授業では、障がいのある生徒たちに「いかに音楽を感じさせるか」に知恵を絞ったという。ピアノを弾くときに、耳が聴こえない生徒に鍵盤をさわらせると、大変喜び、以降はそれを楽しみにするようになった。授業の始まりと終わりに、毎回、同じ曲を歌うようにすると、始まりの歌が流れると目をかがやかせ、終わりの歌になると泣き出す生徒が現れた。 「音楽とはどういうものか、その根本を学ぶことができたように思います。ああ、音楽って人の心の奥深くに響くものなんだ、と純粋に感じましたから」 その音楽の力をもって、みんなで表現することや鑑賞をすることを楽しみ、その取り組みを通して生徒の成長を促したい。異動して今の茅ケ崎高校に来てからも、その思いは変わっていない。授業ができるまで思考や感情にダイレクトに響く音楽の力を肌で感じて■ INTERVIEW歌うときは「歌詞」「曲想」「姿勢」「元気のよさ」などを意識しよう、と石井先生。それらを意識してみんなで歌うと、表現の質がグッと高まるのを実感できる場でもある。「グループワークが楽しい」という生徒たち。基礎の知識を身につければ、音の強弱やリズムを変えてみよう、などと、自分たちで話し合って工夫できる、というのも音楽の魅力だ。1生徒が発言や挑戦をしやすい場になるよう授業の進行やテストの仕方を工夫する授業では雑談から生徒との会話を広げ、音楽の知識を問う際は生徒が間違っても「それも素敵だね」と共感の思いを示す。歌のテストは苦手な生徒が人前で恥をかかないよう準備室で一人ずつ行うが、評価の観点を「曲想」「元気」などと事前に明確に示して全員に「100%の力を出し切って」と求めていく。2聴き手のマナーや発表者のマナーを大事にし表現を楽しむための場づくりを全員でするグループ発表では、聴き手の生徒に「拍手で迎えて発表中はちゃんと観て、終わったら拍手」といったマナーを、発表する生徒には「始めと終わりにお辞儀を、発表は真剣に」といったマナーを説く。みんなで場づくりをして、表現しやすい空間、表現をきちんと受け止めてもらえる空間にするためだ。3生徒が日常でふれる音楽と授業をリンク音楽をより豊かに楽しめるようにする石井先生の授業では、生徒たちが自分たちの好きな曲で、歌唱や演奏の工夫に挑戦することもある。また、修学旅行で訪れる沖縄で三線にふれる予定なので、音楽の授業でも、沖縄の音階や三線を扱う。そうすると日常でふれていく音楽をこれまで以上に多角的に楽しめるようになるからだ。4やってみたらこんなに楽しいんだという体験を教師がまず蓄積、生徒とシェアする授業でリコーダーや三線を扱うにあたり、石井先生はまず自分が音楽教室に通うなどして、やってみる楽しさを体験。授業でその体験談も共有しながら、生徒にも「これまでふれたことのないものでも、興味をもってやってみる」ことを促し、いろいろな音楽と出会う楽しさを感じてもらおうとしている。 石井先生とは、障がいの有無や個性の違いにかかわらず、どうすればお互いが認め合いながら学べる環境にできるかをよく話しています。例えば生徒の中には、各教科の楽しさにふれる前に「今何をすればいいかわからなくて」躓いている子がいます。だから「今やることをその都度マグネット板で提示し、誰もが授業に参加しやすくなるようにしよう」とか。 理想どおりにはいかないこともあります。音楽の授業では全員で意見を出し合って同じ課題に取り組むことをしていますが、数学では難しいことがあるんです。四則演算で躓いている子がグループの議論についていけず、苦い思いをしたり。そうしたときは個別指導に切り替えます。 ただ、わからないからと教員が先回りしすぎると、生徒が「一緒に学びたい」と思っていた場合はその時間を奪うことになるんですね。その生徒の将来を見すえたとき、どの選択がよいのか。一つの正解だけではないはずで、生徒と保護者と教員みんなで納得解を探っていきたいです。数学市川洋介先生認め合える学びのあり方について正解というよりも納得解を探りたい562018 JUL. Vol.423

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