キャリアガイダンスVol.426
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次。もちろん、意見を押し付けるのではなく、相手の意見も尊重する。そうしたCourtesy(礼儀正しさ)は日本人が得意とするところでしょう。 そしてCharacteristics(特性・特色)とCollaboration(協働)。現代的な複雑な課題に対しては、コレクティブジーニアスといわれるように、異なる才能をもつ人々が結集し、チームで解決に当たらねばなりません。多様性のなかでのぶつかり合いがイノベーションを生み、Contribution(貢献)につながるのです。 私はよく、子どもたちに「大人を信用するな」と伝えています。目上の人の話に耳を傾けることは大切ですが、大人が答えをもっているわけではありませんし、過去の経験から未来をアドバイスすることも難しい。自分の頭で考え、最後は自分で決めなくてはいけないのです。そのために、若いうちから外に出て、体験を積んでほしい。その効果的な方法の一つが留学でしょう。コンフォートゾーン(居心地の良い場所)を離れ、アウェイに身を置くと、自分がどれだけ井の中の蛙であったかがわかります。違和感や問題意識、悔しさや驚き、そして人生に手なところ。ダボス会議期間中、外国人をもてなすジャパンナイトというパーティがあったのですが、日本人同士で固まっている様子に失望した経験があります。そこで翌年、震災の復興状況などを記した名刺を用意し、皆で配るよう促したところ会話の輪が一気に広がりました。シャイな日本人でも、きっかけさえあればうまくやる。コミュニケーションデザインの重要性を実感しました。 多様な人々が集う場では、どんな意見であろうが表明すること自体が重要です。良い意見かどうかは二のは多様な選択肢があることを知ることで、心のなかに何かが芽生え、その後の生き方に影響を与えてくれるはずです。 留学が難しければ、ボランティアや地域貢献でもいい。つまり越境体験です。知らない世界を知ること以上に、自分を知る機会はありません。私がそうだったように、弱みが強みに変わることだってあるはずです。 AI技術の進歩で、知識の習得はネットで行うことが一般的になるのは確実です。そうした時代に先生にしかできないことは何かといえば、好奇心や探究心に火をつける場や情報の提供であり、人と人をつなぐことであり、強みを見つけて伸ばすコーチの役割などでしょうか。長年、学校を外から眺めていてそう思います。 時代の急激な変化に社会も教育行政も追いついていない現状で、先生方の業務量だけが増えていることは大きな課題です。今後、教員の働き方改革が進むことで、先生自身も外に出る機会が増えることを期待しています。先生方の視野と視座が広がれば広がるほど、生徒の学びも深まるでしょう。 私自身、この20年間、多くの子どもや企業人に、『失敗おめでとう』『答えは一つではない』『得意を生かそう』と言い続けてきました。学校改革や授業改善でうまくいかないこともあるでしょうが、それも一つの成果。答えは一つではありません。先生方一人ひとりの得意を生かし、生徒の未来につなげてほしいと思います。 失敗を厭わず試行錯誤を続けていくこと、またその姿勢を見せることが、VUCAワールドをたくましく生き抜く子どもたちを育てるための最善の方法ではないでしょうか。「失敗おめでとう」「答えは一つではない」「得意を生かそう」「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」とは図22014年にスタートした官民協働の海外留学支援制度。20年までの7年間で約1万人の高校生、大学生を海外に送り出す計画。派遣留学生は留学計画を自ら設計し、充実した事前事後研修にも参加。支援企業の寄付により返済不要の奨学金が給付される。帰国後は海外体験の魅力を伝えるエヴァンジェリスト(伝道師)としての役割も期待される。自分で考え、決断できるように生徒同様、教員も越境体験を曖昧で複雑な世界を生き抜くために 何が必要か 船橋 力(文部科学省「トビタテ!留学JAPAN」プロジェクトディレクター)112019 FEB. Vol.426

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