キャリアガイダンスVol.426
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道は、センサー付きではなく蛇口をひねる旧式です。さらに園庭の水道には流し台を設けず、水が直に地面に落ちるようにしました。自分の足元が濡れないよう、水の出し方を微妙に調整する必要があります。芝生の中庭も、平らではなくデコボコしています。 このAIの時代に、なぜそんな不便をわざわざつくったか。それは、物事の道理を子ども自身が体で感じ取って、自分で考え工夫してほしいからです。デコボコのある中庭でつまずいて転んでしまう子もいますが、痛い思いをしたからこそ、次は転ばないためにどうしたらいいかを自ら考え始めます。体験を教えることはできません。失敗も含めて体験し、感じ、考える。この一連のサイクルをたくさん経験できるような仕掛けを施設環境に組み込んでいます。 園舎を含め、子どもを取り巻くすべてが、子どもの育ちに貢献する「道具」になるのです。そして、先生もまた、そんな重要な「道具」の一つだと捉えています。 根本にあるのは、「子どもは自らを成長発達させる力をもって生まれてく 私たち教員の仕事は、「教えること」でしょうか。それに対するふじようちえんの答えは、園舎の随所にも表れています。  十数年前、今の園舎に改築した際、ちょっとした「不便」をたくさんつくりました。例えば、園庭に面した引き戸は、自動でぴったり閉まるタイプではなく、最後は力を入れないと閉まりません。いい加減に閉めると隙間ができて、ほかの子に「寒いよ」と言われてしまいます。また、手洗いなどの水〝自ら育つ力をもって生まれた〞 子どもたち。その出発点における教員の関わり方とは今回の学習指導要領の改訂は、学びの主役は子どもであることを改めて定義し、幼稚園から高校まで一貫して〝何を教えるかではなく、何ができるようになるか〞という視点で書かれていることが特徴です。図1は、そのスタート地点である幼稚園を卒業するまでに育ってほしい、資質・能力。先生と子どもの関わりの出発点である幼稚園において、子ども自身の自らを成長させる力を最大限に発揮させるために、先生方がどう関わり、どう伸ばそうとしているのか? 子どもの力を活かした取り組みを行う「ふじようちえん」の加藤園長にお話を伺いました。一般企業勤務から会社経営を経て、ふじようちえん園長に就任。学校法人みんなのひろば理事長として、認可保育園や東京都認証保育所も経営。多くの社会経験と子をもつ親としての目線を活かし施設運営にあたっている。著書に『ふじようちえんのひみつ』(小学館)。ふじようちえん 園長加藤積一先生【ふじようちえんの概要】東京都立川市にある私立幼稚園。モンテッソーリ教育を取り入れた教育実践や、「巨大な遊具」として設計された1周約180メートルある楕円形の園舎が特徴。OECD/CELE 学校施設好事例集(第4版) 最優秀賞など表彰多数。幼稚園教育要領(平成29年告示)が示す「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」図1幼稚園教育要領では、これらの項目ごとに具体的な姿を示し、教師が指導を行う際に考慮するものとしている。園舎にあえてちょっとした不便を設置取材・文/藤崎雅子 撮影/竹内弘真「子どもは何もできないから大人が教え込む」ではない健康な心と体自立心協同性道徳性・規範意識の芽生え社会生活との関わり思考力の芽生え自然との関わり・生命尊重数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚言葉による伝え合い豊かな感性と表現122019 FEB. Vol.426

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