キャリアガイダンスVol.426
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講演で「どの生徒も協働での問題解決ができるようにならないといけない」といった話をすると、先生方から「おとなしく一人で真面目に勉強する子の性格も認めてあげたい」といったコメントをよく受けます。 私は大学教員として、また2015年からは桐蔭学園の教育顧問としても、学校を児童・生徒・学生がもっと学び成長する場に変えられないか、研究や実践に取り組んできました。その経験からこれだけは申し上げたい。対人関係が弱く受け身な生徒を、真面目だから「それでいいよ」とする考えは改めてほしい、と。 なぜなら、そうした子ほど社会で苦労しがちな現状があるにもかかわらず、個性として認めたいという理由をもってして、協働や探究をする力を「育てる」対象から確信犯的に除外しているからです。 一つデータをあげさせてください。25〜29歳の社会人への調査で、個性をとらえる3因子をもとに、5つのタイプに分類し、各タイプの職場での状況をまとめたものです(図1)。「外向性」とは、他者や集団に向かう傾向のこと。「開放性」とは、経験への開かれ、いわば新しい物事に向かう姿勢で、好奇心や探究心に近いと言えます。「勤勉性」とは、物事に一つひとつ真面目に取り組む傾向のことです。 ご覧のとおり、タイプ2――開放性が高く、外向性はそこそこで、勤勉性が低いタイプは、すべてが高いタイプ1に迫るほど、職場で活躍できています。もちろん、このタイプは勤勉性をもう少し高めるべきですが。他方で、タイプ4――勤勉性は高いものの、開放性や外向性は低いタイプは、すべてが低いタイプ5と同じぐらい、職場で苦悩しているのです。 学校教育は何のためにあり、私たちはなぜ教員になったのでしょうか。それは、生徒や学生が将来力強く仕2018年に京都大学から桐蔭学園に移られた溝上先生。世間には驚きをもって受け止められましたが、ご自身は「大きなチャンス」ととらえているそうです。そうした言動の根底にはどのような哲学があるのでしょう。社会の中で「生徒」や自分を含む「教員」はどうあればいいかを問い続ける溝上先生に、これからの在り方を伺いました。「生徒」と「自分」の社会参加の在り方を考えてほしい学校法人桐蔭学園 理事長代理桐蔭学園トランジションセンター 所長・教授溝上慎一みぞかみ・しんいち●京都大学博士(教育学)。1996年に京都大学高等教育教授システム開発センター助手に。同大講師、助教授(のち准教授)、教授を経て、2018年9月より現職。専門は心理学(現代青年期、自己・アイデンティティ形成、自己の分権化)と教育学(生徒学生の学びと成長、アクティブラーニング、学校から仕事・社会へのトランジション等)。著書に『高大接続の本質―「学校と社会をつなぐ調査」から見えてきた課題―』(学事出版、責任編集)ほか多数。どんな社会人が苦労しているかその現実を直視してほしい取材・文/松井大助 撮影/平山 諭162019 FEB. Vol.426
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