キャリアガイダンスVol.426
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寺西 望先生は教員になってから「思うようにいかないなあ」と感じた部分がある。学生時代に「生徒が内面を振り返り、自分の意志で進路を決めるような教育をしたい」と思い、ノウハウを学んだ。石川県の公立高校に着任後、満を持して自分を省みるワークショップ内面を引き出すだけでなく本物の体験も届けなければや面談を行った。 「ですが、生徒の内にある体験がまだ少なく、内面を振り返るだけでは半数以上がやりたいことや自分の強みをうまく見出せなかったのです」 折しも初任校は、商業科の教員を中心に、地元産業や市役所と連携した「体験的な学び」に力を入れはじめていた。寺西先生は、こうした学びと、内面の振り返りの両方があってこそ、生徒の主体的な進路選択を促せると感じた。でも同時に、「今の自分では、商業科の先生のようなことはできない」とも思ったという。 「どんな仕組みで社会が回っているかも、企業や行政とどうコミュニケーションを取ればいいかも全然わからなかったからです。外に出ていろいろ経験してみたいと考えはじめ、教員4年目に、転職を決意しました」。 外の世界を経験したかった理由がもう一つあった。担当教科の数学のことを、寺西先生は生徒に「二次関数を将来使わなくても、その勉強で鍛えた論理的思考や問題解決の力はどこでも生きる」と話してきた。それが真実か、自ら試したかったのだ。 挑んだ仕事は、ブライダル事業者への営業。結婚式を行うホテルやレストランに、情報誌に広告を出してもらえるよう、要望や課題を聞き出し、優先順位を考え、最適な広告の提案をする仕事だ。数学で鍛えた力は、その戦略立案に確かに役立った。 だが自分に欠けていた部分も思い知らされる。先輩の社員に、高校卒業後に接客業を経て入社した同い年の女性がいたのだが、彼女のほうが成績は断トツで良かったのだ。 「その先輩はお客さまへのヒアリングがうまく、でも戦略立案はあまり得意ではなかったんですね。彼女はそこをロジカルな思考に長けた仲間に協力を仰いでカバーしていました。一方で僕は、聞く・考える・伝えるという全業務を1人でやろうとした。個の力ではなく、チームで協働してこそ成果を出せるのだと学びました」 企業で働いた5年間のうち、途中からは地元のNPOおよび行政の教育活動や地域活動にも関わった。なかでも寺西 望先生金沢高校(石川・私立)高大接続改革実行本部 副主任石川県の公立高校に4年間勤務。民間企業に転職後、ブライダル事業者への広告の営業や、学校への教材の営業に5年間携わる。同時期に、教育活動や地域活動を行うNPOにも参加。2017年に金沢高校に着任。企業人時代、プライベートの時間を費やし立ち上げに携わった小松サマースクール。高校生が海外の学生と共にリベラルアーツを学び、自分の将来も考える。Story一度社会へ飛び出すことでリアルな経験と多様性を学校へ持ち帰る4取材・文/松井大助企業でも教員の力は通用しただがチーム力はそれを上回った合意形成や決断をするなかで自分の軸をもつ大切さを実感学校で、外の世界で、生徒や自分に必要なものを発見。チームによる教育を目指す252019 FEB. Vol.426
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