キャリアガイダンスVol.426
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ジ大学での英語教授法の研修に参加する機会を得た。そこで模擬授業を実施した際、「生徒にレールを敷いて教えすぎている」と指摘された。 「それまでの教員経験を否定されたのです。生徒役としてケンブリッジの先生たちの授業を受けると、自信のない発言も否定せずすべて受け入れてくれたり、学ぶ方法を生徒側に選ばせてくれることに、カルチャーショックを受けました。例えば音読する際にも、一人で読みたいか、仲間と一緒に読みたいか選べるのです。自分で選ぶからこそ責任が生まれ、学びの自立に近づいていくのだと目から鱗が落ちる思いでした」 帰国してすぐ、生徒が選択する授業を試してみた。教科書の学ぶ範囲を分割し、グループごとにジグソー法で協働して内容を伝え合う方法だ。すると生徒たちが、今まで以上の笑顔で、能動的に楽しそうに授業に臨むようになった。生徒たちがイキイキと学ぶ姿に確信をもった山本先生は、教員が手取り足取り教えるのではなく、生徒が学び方を考え、選ぶ、生徒主体の授業へと転換させた。 「教員は教えなくていいので、生徒を観察する時間が生まれます。生徒がつまずいていたら、英語の知識ではなく学び方、調べ方を教えればいいのです。迷っていたら励まし、成長していたらそれを本人に伝えることで、さらにやる気を出して成長していきます」 選択には責任がともない、選んだ結の先生と共に設立。講演や出前授業、ワークショップなどを精力的に行っている。そんな山本先生も、以前は従来の講義型授業をしていた。 「若いころは、『わかりやすい授業が良い授業』と思い、多数の資料を作り、一生懸命説明する授業をしていました。けれど、教員が準備に疲弊し、生徒も大変そうな授業が持続可能なのかという漠然とした違和感がありました」 そんな想いを抱いていた2011年、東日本大震災が起きた。被災地に赴き、親や教師を失った子どもたちを目の当たりにしたとき、「もし自分たちがいなくなったら、子どもたちの学びはどうなるのか」という無力感に襲われた。「大人がいなくても、自ら学び続けられる生徒を育てなければいけないと、気付かされました」 震災からほどなくして、ケンブリッ果で手を抜いたら学力が身に付かないことも伝える。 また、生徒と教員は対等なパートナーシップであるべきと山本先生は語る。「昨年、東京の国連でS*DGs(持続可能な開発目標)について生徒と共にスピーチをする機会がありました。生徒が自分の経験を英語で話したとき、会場から『希望を見た』と声があがりました。生徒には意見もアイデアもありますし、世の中を変える発信力もあります。ITなどは生徒から学ぶことが多いです。生徒と教員が『指導』ではなく双方向の『協働』関係になければ、本当の意味での授業改革はできないと思います。AL型授業も『やらせる』のは本末転倒で、生徒視点でやりたい方法で学んでいるかどうかが大切です」 山本先生が教員としての自身の在り方をダイナミックに変え、ブレずに今日まで続けてこられたのは、社会の変化を痛感しているからだ。 「AIの出現のみならず、国連サミットで採択されたSDGsは全人類共通の課題です。その混沌とした社会に生徒たちを送り出すために、学校は何をすべきか考えなければなりません。社会課題と教科の学びがシームレスにつながる学びを提供すべきだと思います。それがPBLであり探究です。社会の変化から逆算すれば、学校や教員がやるべきことは見えてきます。教員は社会がどうなっているか、もっと興味をもつべきではないでしょうか」 もう一つ、山本先生を後押ししたのが仲間の存在だ。前任の両国高校時代から、志を共にする先生方がいた。「学年や教科を超えた仲間がいました。全員が同じ方法ではなく、多様性があっていいと思います。生徒にとって選択肢は多い方が良いからです。また、我々のやり方に反対する先生がいても否定せず、『自立した生徒を育成する』という目標の目線さえ合わせられればいいと思います」 新しいことを志す仲間が全体の3割くらいになると、組織が活気づきだすと山本先生は感じている。 「もしも校内に仲間がいなければ、Confeitoに参加してほしいです。学校を超える仲間をつくるためにつくった組織ですから」生徒自身が学び方を選択し選んだ方法で最善を尽くす授業社会課題と学校の学びを仲間と共につなげていきたい国連でSDGsについてスピーチを依頼された際、同席させた附属中学の生徒による英語のスピーチで、会場の雰囲気が一変し参加者がみんな笑顔になった。生徒同士がペアで説明し合う山本先生の英語の授業。ペアはタスクごとに変わっていく。先生は生徒の様子を観察し、必要に応じて声をかけている。*SDGs(エスディージーズ)とは「Sustainable Development Goals」の略称で、2015年の国連サミットで採択された国際社会共通の目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、“地球上の誰一人として取り残さない”ことを謳っています。“これから”を歩む教員 5Stories272019 FEB. Vol.426

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