キャリアガイダンスVol.426
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数にあります。若い人の良さとしてしばしば話題にあがる優しさや繊細さ。そういったものが国境を越えて広がっていく余地はたくさんあるのです。 次期学習指導要領に向けた改訂のための有識者会議などで、私が一番強く求めてきたのがESD=持続可能な開発(発展)のための教育(図1)でした。世界的な視野や地球環境への関心など、広く遠く深いところに意識が向かないのであれば、教育の意味はないと思っているからです。 教師一人ひとりが、「未来の国の主権者」である子どもの立場を代弁する視点に断固として立つ。そうした動きになったとき、希望は生まれると思います。れ」と道を示さなくてはいけません。 学習指導要領も大学入試も変わります。その流れのなかで、もしも私の懸念通り、ただ能力だけが重視され、経済的な豊かさを追うだけの教育に変わってしまうとしたら、子どもたちはむしろ不幸になるでしょう。 しかし、そうした能力に人格・人間性が伴い、環境やエネルギー問題のほか、地球規模の諸課題に立ち向かうために生かされるのであれば、大いに期待はもてます。自分たちの利害だけを主張しあい、国民国家レベルの話で済む時代は終わりました。今、大勢のボランティアやNPOが取り組んでいる国や地域の枠を越えた活動のなかには、目を見開かされるものが無とをおかしいと声を上げません。そうした無気力な態度は、かつて多くの日本人が国や軍に依存してきたことと変わらないと思うのです。 だからこそ、教師一人ひとりが、非常に複雑で、厳しい社会状況にあるという認識に立ち、そうした社会に覚悟をもって向き合う姿を見せるべきなのです。さまざまな圧力に対しても、うまく耐え、感情的にならず、知性・理性を働かせながら、生徒の将来にとって望ましいことは何かを深く考え、他者や社会に対して表明する。 自分は、のほほんと暮らしながら生徒に「お前ら、がんばれよ」では余りに無責任。「俺も模範を示す立場としてがんばるから、君たちも本気にな安易に「希望」と言えない時代。それでも、社会的文脈や地球環境への関心を育むことで生徒の未来へ希望をつなぎたいESDとは?図1ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」と訳されています。今、世界には環境、貧困、人権、平和、開発といった様々な問題があります。ESDとは、これらの現代社会の課題を自らの問題として捉え、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことにより、それらの課題の解決につながる新たな価値観や行動を生み出すこと、そしてそれによって持続可能な社会を創造していくことを目指す学習や活動です。つまり、ESDは持続可能な社会づくりの担い手を育む教育です。ESDの実施には、特に次の二つの観点が必要です。● 人格の発達や、自律心、判断力、責任感などの人間性を育むこと● 他人との関係性、社会との関係性、自然環境との関係性を認識し、「関わり」、「つながり」を尊重できる個人を育むことそのため、環境、平和や人権等のESDの対象となる様々な課題への取組をベースにしつつ、環境、経済、社会、文化の各側面から学際的かつ総合的に取り組むことが重要です。※文部科学省ホームページよりhttp://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm自立した人格の形成なくして何のための教師か安彦忠彦(神奈川大学 特別招聘教授/名古屋大学 名誉教授)332019 FEB. Vol.426

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