キャリアガイダンスVol.427
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ました。「先生は、いつも相互承認の大切さを訴えていたけど、それ以前に、今の若者は自己承認ができていません。自分がわからないのに相互承認など無理ですよ」と。その通りで、冒頭申し上げたように、自分と向き合う時間が必要だと思っています。宮永 本気で考えるのにはきっかけが必要なので、面談では揺さぶりをかけることを心がけています。個人的には、「もはや未来は予測不能なのだから、大学のブランドや職業イメージではなく、好きなことを突き詰めることが、ますます大事なのでは」と伝えるようにしています。―自分で決めることが原動力になるし、失敗したとしても得るものは大きい、という話が印象的でした。黒瀬 文化祭で劇をやると決めたクラスがありました。劇は大変なので「やるからにはがんばれ」と言ったのですが、重要な女子の役が決まらず、泣きつかれたんです。私の一存で配役を決めることもできたんですが、ぐっと耐えて「一度決めたのだから最後まで話し合いなさい」と言ったところ、ぎりぎりまで話し合った結果、男子生徒が腹をくくって引き受けてくれたとのこと。そうしたら本番でバカ受け。その男子に無理を言った手前、全員が協力して本当に良い劇になりました。仮に失敗したとしても、それはそれで人生のプラスになったかと思うと、教員は我慢しないといけないですね。林 本校でも、文化祭をもう少し生徒の自主性に任せようと話を進めているところです。人と何かを決めようとすると、思い通りにいかないこともあり、葛藤が生じ、それこそ自分との対話にもなるはず。そんなきっかけとなることを期待しています。宮永 失敗したくないのは教員も同じですが、そういう人ばかりでは、新しいことに踏み出せず、踏襲が多くなります。今の学年主任は、「失敗してもいいから積極的にやれ。責任はとるから」と言ってくれる人。なので教員も同様に、「うまくいかなくてもフォローするから安心して挑戦しろ」と生徒に伝えることができます。―貴重なお話ありがとうございました。最後にひと言ずつお願いします。杉山 一流の天ぷら職人は耳を研ぎ澄ませ、音の変化で揚げるタイミングを計るという話を聞きました。私は今、担任をもっていないので授業が勝負なんです。40人を相手に耳や目を研ぎ澄ますことを意識したら、これまで以上に生徒のことが見えるようになりました。手を盛んに動かしているようで、実は悩みを抱えていたり。そういうことをきっかけに、より深く話を聞くようにしています。宮永 生徒が発するサインを見逃さないことですよね。本校ではできるだけ毎日、手帳のやりとりをしています。進路の悩みや、学問や職業についての質問もあるので、こちらも必死。引き出しを多くもつ必要があるし、知識がないとしても、教員が一から調べ、学ぶ姿勢を見せれば、生徒に伝わると信じています。林 ある方が「自己実現とは、自分になること」と話していて、腑に落ちました。自己実現という言葉に対する私のイメージは、大きな目標に向かって必死によじ登るものでした。でもその方は「本当になりたいもの、やりたいことは、自分の中にある。今までの体験で楽しいと感じたことや、憧れたことの近くにあるはずなので、そこを深掘りしていけばいい」というのです。そうしたことに気づける機会を提供できればと思っています。黒瀬 最後、大きな話になりますが、教育や社会のシステムが、もっと自由に行きつ戻りつができるようになることを期待しています。そのうえで学校が、それこそトライ&エラーができる場となる。生徒が安心して失敗でき、先生もそれを温かく見守れるようになれば、自ずと、「決められる」ようになると思います。みやなが・あつし●担当教科は技術・家庭科。入試広報部副部長。高3担任。文芸部顧問。「付属中学校で採用され、高校に来て10年目です。入試広報の担当が長く、説明会などを通じて他校の実践を知る機会が多く、それを自校の課題改善につなげています」成田高校(千葉・私立)宮永 厚先生きっかけがあれば生徒は劇的に変わる。そのための働きかけ、揺さぶりを【座談会】なぜ決められない?学校・教師は何ができる?

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