キャリアガイダンスVol.427
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チームで協働することが不可欠な時代、集団で他者と協議して方向性を決めていくためにはどうしたらよいか、社会の合意形成を専門とし、行政や学校など多様な場面で活躍している水谷香織氏に伺いました。 私は高校生の時に、長良川河口堰の建設是非を問うニュースを観て「建設が決定してから、なぜあんなに大きな反対が出るのだろう。もっと良い進め方、決め方があるのでは?」と素朴な疑問を抱きました。以来、大学で土木を学びながら、集団の合意形成について研究を重ねてきました。 長良川河口堰のような事案は現在でも頻繁に起きています。もめる原因はプロセスにもあります。例えば、町に道路を作る場合、①構想をたて、②都市計画を決定し、③工事を実施し、④維持管理となります。本来は①の段階で住民と合意形成できていればよいのですが、住民に知らされるのは②の後であることが多いのです。 合意とは、ある案件について、影響を受ける人もしくは与える人(=利害関係者)が、満足、少なくとも納得している状態のことです。合意形成とは、合意を目指して行う前向きな話し合いのプロセスです。合意形成を行うとき、「合意形成してもしなくてもよいのだ」という選択肢も含めて、話し合いの必要性について考えることが大事です。そのうえで、「合意形成しよう」とみんなで決めることが重要なのです。 合意形成のメリットは、情報収集したり、仲間と一緒により良い価値を生み出そうとしたり、みんなが案件について熟知している状態になり、決定後にもめそうなことを洗い出すリスク管理もできることです。 一般的に、合意形成で大切なことは、❶何について決めたいのかを明確にして、全員で共有することです。次に❷意思決定権者は誰か責任者を明確にします。❸利害関係者を洗い出します。これを間違えると、後でもめる原因になります。❹利害関係者の関心は何かを洗い出します。そして、❺それぞれの利害関係者の関心ごとを創造的に満たす方法を考えることです。 自身が利害関係者として合意形成の場に臨む際、「話し合う案件に対して、自分は何を大切にしたいか」を考える必要があります。実はそれが大変なことで、普段から意識して考えていないとわからないと思います。最初はとりあえず話し合いに参加してみて、どうだったかを体験してみてください。その結果、自分がどんな気持ちになったかを振り返ってみることが大事で、もしも合意の内容が自分の意と合わずに嫌な気持ちになったなら、「次は自分が何を大事にしたいかちゃんと考えてから、話し合いに臨もう」と学ぶことができます。 関心ごとは人それぞれで違っていて当然です。みんなの関心ごとの違いを明確にし、整理しながら、アイデアを出し合うプロセスを踏んでいけば、みんなが満足できる選択肢を創りやすくなります。合意した内容が必ずしも自分の思っていたことと違っていても、納得感は高まります。このように合意形成とは、妥協点を探ることではなく、クリエイティブなプロセスなのです。 もしも、既に合意形成された内容が自分の意見と合わず、合理的に考えてもおかしいと思った場合は、既存のルールを変える行動を起こせばいいと思います。例えば学校なら、時代に合わない校則などがあるかもしれません。変えるにはどうしたらよいか考えることが大事で、社会に出る前に、さまざまな学習活動を通じて体験を積めると良いと思います。やること内容目的を共有する何のために何について決めたいかを明確にして、全員が言えるよう共有する誰と合意するか決める合意形成に関わる利害関係者は誰か洗い出す前提条件を整理するいつ実施することか、予算はどれくらいかなど、合意すべきことの実施に関する条件を洗い出すゴールイメージを描く関わる人がどんな気持ちになれると良いかを考え、共有する共有すべき情報の洗い出し最低限、全員が知っておくべき情報を洗い出し、整理する合意形成のプログラムをつくるどんな論点で、どんな話し合いの仕方をしていくかを決める役割を分担する合意形成のプロセスで誰が何の役割を担うかを決める合意に向けたプロセス自体に意味やメリットがある自分が何を大事にしたいか考えて振り返ることが重要合意形成の流れ図1集団の「合意」とは妥協点の模索ではなく、納得のいくプロセスを創り出すこと2003年岐阜大学大学院工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員を経て、2006年社会的合意形成を専門とするパブリック・ハーツ株式会社を設立。行政・企業内コミュニケーションをはじめ、多様な分野で、合意形成のコンサルティング、ファシリテーション、研究開発を行い、多数の学校現場でもコミュニケーション技術の研修を行う。名城大学非常勤講師、岐阜大学客員准教授。パブリック・ハーツ株式会社代表取締役水谷香織氏実社会はチャレンジの連続「決める」の概念も変化している水谷香織(パブリック・ハーツ株式会社 代表取締役)152019 MAY Vol.427

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