キャリアガイダンスVol.427
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 ギリシャの哲学者アリストテレスは、幸福を人生の究極の目標ととらえていたし、最近ではフランスのサルコジ大統領が設置した委員会が、幸福度計測指標についての報告書を出すなど、幸福感とは古くて新しいテーマである。「幸福感」がそれほど議論の対象になるのは、所得水準と幸福度が必ずしも相関しないという共通認識があるからである。もし、所得でなければ何が幸福感に影響をしているのか。健康や人間関係が大切なことは想像できる。あるいは学歴なのか。しかも、親が子どもに対して気にかけることが、「子どもの幸せ」であるというのはいつの時代も変わらない真実である。幸福感に影響するものが何かを2万人の日本人への調査で探ってみた。 RIETI(経済産業研究所)プロジェクト「日本経済の成長と生産性向上のための基礎的研究」の一環として、我々は先のような問いに対して、実証的な答えを与えるために調査を行い、その結果を「幸福感と自己決定―日本における実証研究」にまとめた。 調査は、2018年2月8日から2018年2月13日にかけてインターネット調査によって実施している。調査対象者は、全国20歳以上70歳未満の男女個人であり、性別・年代・都道府県で人口構成比に合わせて割付回収を行っている。回収数は3万3598であり、回収した標本に対して非整合データのチェック等のデータチェックを行い、信頼性の高いデータのみを抽出し、分析で用いた標本回収数は2万5となっている。 主要な調査結果は、次のようなものである。まず、幸福感を決定する要因としては、健康、人間関係に次ぐ変数として、所得、学歴よりも自己決定が強い影響を与える。幸福感は、自己の目標を達成できたときに感じる達成感によって得られる喜び(前向き志向)と、今の自分の状況を憂えたり、自分の将来を不安に考えたりする不安感によって決定される。進学、就職などの進路選択において自己決定を行った者は、そうでない者よりも、前向き思考が高く、不安感が低いことがわかった。すなわち、自己決定度が高いほど幸福感も高いのである。(図1、図2) 多くの親は、子どもと一緒に進学の神戸大学特命教授西村和雄同志社大学経済学部教授八木 匡なぜ自己決定は重要か?―日本人の幸福度調査から得られる示唆―幸福度調査からわかったこと自立を促す自分で決めないと幸せになれない?2018年9月に、「所得や学歴より『自己決定』が幸福度を上げる」というレポートが発表されました。〝決める力〞をもつことは、仕事や社会生活で求められるだけではなく、個人の人生の幸せにも大きな影響があるというのです。幸福感において、なぜ自己決定が重要なのか?について、この調査をまとめられた研究者のお二人にご寄稿いただきました。162019 MAY Vol.427

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