キャリアガイダンスVol.427
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成功を喜んだり、その失敗によって心を痛める。子どもの進路は、子どもの一生を左右する重大な問題であると考えるからであろう。しかし、親が望ましいと考える道と異なる進路を自ら選ぶ子どももいる。自ら選んだ体験を繰り返すことにより、新たな興味を見出し、結果として親が望むのとは別な進路をとることもある。このようなときに、子どもの進路選択の方向性に対して親が不安を感じ、より多くの経験を蓄積した者が、アドバイスして進路を修正させることが、長期的に子どもにとっての好ましい結果をもたらすのではと考えて悩むこともある。子どもの自己決定に対してどのように対応したら良いか悩みを抱えている親は少なくない。そして、長期的には、子どもの自己決定に委ねた方が良い結果をもたらすのか、それとも子どもの自己決定を修正した方が良いのかを知りたいと思う親は多いであろう。 我々が、2016年にRIETIで行いまとめた研究成果、「子育てのあり方と倫理観、幸福感、所得形成―日本における実証研究―」では、親の子育てタイプを支援型、厳格型、迎合型、放任型、冷淡型の5つに分類し、支援型の子育てを受けた子どもが、将来において、他のタイプの子育てを受けた子どもよりも高い幸福感をもつという結果を得た。支援型の子育ての特徴は、子どもの自立を促すことにある。また、自己決定が動機付けにおいて重要であることは、心理学者デシとライアンの一連の研究(1985、2000)で示されている。これらの研究により、支援型の子育てが子どもの自立を促し、醸成された自立心が幸福感に繋がることが考えられる。 自己決定によって進路を決定した者は、目的を達成するために、自らの判断で努力することによって成果を達成する可能性がより高くなり、また、達成した結果に対して責任と誇りをもつことが考えられる。達成感と自尊心は、前向き志向につながる要素である。これは、デシとライアンの内発的動機付けに関する研究成果とも合致している。 それでは、自己決定が不安感を低くしていることはどのように説明できるであろうか。自己決定を行うことは、進路の決定に対する自己責任意識を高め、成功したときの達成感のみならず、失敗したときの結果責任を強く意識させる。自らの責任で失敗したという意識は、自らの力で失敗から立ち直る力になり、結果として成功を手に入れたときの自信に繋がる。自己決定により、失敗から立ち直った経験をもつ者は、失敗することに対する不安感も少なくなる。むしろ失敗が、より大きな成功につながることを経験することになる。 自己決定を行い、失敗を繰り返し、そこから成功する力を自ら手に入れることによって、人はより多くのことにチャレンジできる力を身につけていくことになる。このような力をもった者が、長期的に社会で成功していくことは、十分に納得できることである。 自己決定は、幸福感を得るために何が必要であるのかという問いに対する答えの一つを与えているといえよう。前向き志向決定要因の重要度(標準化係数)図1不安感を決定する要因の標準化係数図2なぜ自己決定か0.140.0150.015-0.006-0.006-0.095-0.095-0.118-0.1180.0910.0910.130.1300.12-0.020.1-0.040.08-0.060.06-0.080.04-0.10.02-0.120-0.14学歴学歴個人年収額自己決定指標世帯年収額自己決定指標なぜ自己決定は重要か?-日本人の幸福度調査から得られる示唆-西村和雄(神戸大学 特命教授)/八木 匡(同志社大学経済学部 教授)172019 MAY Vol.427

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