キャリアガイダンスVol.427
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香里ヌヴェール学院中学校・高校校長池田靖章いけだ・やすあき●京都教育大学大学院を卒業後、大阪高校の教員を経て、2019年度より香里ヌヴェール学院の校長に。大阪高校の最後の3年間でもち上がりでみた34人学級では、生徒が枠にとらわれない多彩な進路選択(マレーシアや台湾の大学への進学、eスポーツのプロ契約、不登校経験からの大学のプレゼン入試合格など)をすると同時に、進路決定率100%も達成した。香里ヌヴェール学院でもさまざまな進路選択ができるよう、外部連携を積極的に進め、海外からビジネスの現場まで生徒を柔軟に接続することを構想している。の自己開示なしに捉えられません。そこでベースとして必要になるのが、「全員が承認されている場」です。自分を認めていない教師や同級生がいる前で、本音は出さないですよね。 だから特別活動(以下、特活)が鍵を握るのです。なぜなら、特活は教科指導以上に生徒の多彩な面を評価できるからです。例えば僕は高校時代、英語の授業ではテストが20点台で評価されていませんでした。ですが、語学研修と絡めた特活では、英語はダメでも進んで外国の歴史を調べたことなどを絶賛してもらえました。今では海外進学支援が、僕の専門分野の一つになっています。 また、特活は誰一人取り残さずに探究心に火をともせる場でもあります。特定の教科の授業に全生徒が夢中になるのは、自分にも苦手科目があったことを思えば至難の業ですが、特活のLHRで「クラスやクラスの仲間のこと」を考えるのであれば、全員が自分事で探究できるからです。 大阪高校で担任した学級では、LHRで安心してクラスのことを議論できるよう、春先は場づくりも重視しました。50分授業なら30分はペアで互いの良い点や失敗談を照れずに言い合う、つまり認め合うワークをして、人を茶化さない場にしてから、本題に入 教師がクラスづくりや進路選択を牽引するのではなく、生徒が何をするか自分で決める。生徒が失敗しても教師がフォローし、誰一人取り残さない。前任の大阪高校で僕はそんな学級経営を目指し、香里ヌヴェール学院でもその実現を思い描いています。 きっかけは、教員3年目の手痛い失敗でした。人気者と思っていた生徒を軸にクラスをつくり、満足度が高いクラスにできたと過信していたら、軸にした生徒は不本意だったことを卒業式の日に聞かされたのです。ショックでした。「この子はこうするといい」という教員の勘は、研ぎ澄ませば9割は当たるかもしれません。でも1割は外れます。学校教育がそれではダメだと思ったのです。 だから最初は、残り1割も外さない手法を探しました。けれども、カウンセリングやコーチングを学び、「答えは本人の中にある」という考えに出会って、価値観が根本から覆りました。教師は無理に予測しなくていい。生徒が何をしたいのか、あるがままを捉え、教師はそれを支援すればいいのだ、と思うようになったのです。 ただ、生徒のあるがままは、本人人を責めず助け合う関係を特活を基盤に築いていく取材・文/松井大助 撮影/丸谷達也管理職の視点これからの学校づくりは特別活動が基盤に34歳で校長に就任した池田先生は、特別活動を基盤に「誰一人取り残さず、全員が挑戦する学校」の実現を目指されています。そうした思いを抱くようになった、池田先生ご自身の失敗体験とそこからのチャレンジをお聞きしました。282019 MAY Vol.427

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