キャリアガイダンスVol.427
29/66
るようにしたのです。 朝のSHRではある活動を取り入れました。「最後に教室を出た生徒が窓の鍵を閉め忘れた」など、生徒が失敗したときに、本人は責めず、その失敗に「自分たちは何ができたか」を全員で紙に書くようにしたのです。 こうした活動を続けていくと、何か問題が起きても、生徒は人を否定せず、課題を全員で解決することを楽しむようになりました。互いを認め合い、失敗しても助けてもらえる。学校にそんな安全・安心の場をつくる基盤となるのが特活なわけです。 生徒同士で意見がぶつかるようなテーマでは、相手の意見に「この条件ならいい」と自分の思いを足して話し合おう、と促していきました。 修学旅行の沖縄での班行動について、海に行くか、国際通りで買い物をするかでもめたグループがありました。そこで双方が相手の意見に思いを足していくと「海に入らなくていいなら行ってもいい」「1時間なら買い物にもつき合う」と折り合える部分が見えてきて、最終的に「この海の家を集合場所にすれば、海にも行けるし、横の免税店で買い物もできるね」と、多数決ではない、全員での合意を自力で導き出したのです。 このやり方は、教師と生徒の合意形成にも使いました。例えばLHRで何をするかも、教師が一方的には決めず、行事を踏まえた原案を出したうえで、生徒から「これをしたい」という提案があればそれもやります、として合意形成を図ったのです。班ごとに行き先が異なる修学旅行では、「クラス全員でも何かしたい」という提案が生徒からあり、旅行後に、各班が体験したことを発表するプレゼン大会をLHRで開きました。 自分たちが発案した活動を行うときは、生徒はそれこそ遊んでいるように楽しみます。ですが、LHRの最後の5分間には必ず振り返りを入れ、気づいたことや感じたことを言語化することで、おのおのがしっかりと学びも得られるようにしました。 具体的に何を学んだのかといえば、自分の頭で考え意見を出すことや、相手の意見を聴くことの大切さ。そのうえで、一方の意見を切り捨てるのではなく、批判するだけの評論家になるのでもなく、お互いに対案を出して自分事化しながら合意形成を図ることです。こうした力は、実社会でも存分に生かしていけますよね。 大阪高校で最後に3年間受けもったクラスの卒業式は、忘れられない日になりました。特活を軸に認め合ってきた生徒一人ひとりに、式典後、教室で「感謝を伝えたい人」と「10年後のビジョン」を語ってもらったら、保護者も見守るなかで生徒たちの話がとまらず、2時間もかかったのです。彼ら彼女らのなかには中学校では成績がいまひとつで注目してもらえず、高校入学時は自信なさげで、無気力に見える子もいました。その子たちが涙を浮かべ、キラキラした目で、自分の未来を、それも「社会にこんなふうに貢献したい」と自己実現の上にある社会実現まで語ったんです。僕も保護者も泣きっぱなしでした。 その体験を経たことで、特活やLHRこそ学校の核になるという思いは一層強まりました。もっと言うと、日常のHRにこそ教育の本質があり、そこを疎かにするなら教師の存在を問われる、とすら思っています。 香里ヌヴェール学院でも、校長として、特活を基盤に、誰一人取り残さず、生徒が認め合い、探究し、挑戦し、失敗しても教員やまわりがフォローして、全員がその体験すべてから学ぶ場をつくりたい、と思っています。本校には「挑戦したいけれど勇気がでなくて悶々としている子」に来てほしいんですよね。そうした子が、自身の挑戦と失敗から学びを得て、キャリアを切り拓いてほしい。その結果として、欧米・アジアの大学から国内の大学、大企業からスタートアップの企業まで、生徒がさまざまな進路を自分の意志で目指せる学校を実現させたいと考えています。誰一人取り残さず、認め合い、探究し、挑戦する。その実現を特別活動で。相手の意見に自分の思いを足し「全員の自分事」に変えていく挑戦と失敗を教員がフォローし生徒の自己実現と社会実現を【管理職の視点】これからの学校づくりは特別活動が基盤に 池田靖章 (香里ヌヴェール学院中学校・高校 校長)292019 MAY Vol.427
元のページ
../index.html#29