キャリアガイダンスVol.427
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 日本の子どもたちが自己決定できない背景を考えてみましょう。長い封建制度の下、お上の言うことを聞いていれば良く、自己決定をする必要性がなかったという文化があります。また、日本人は相手の属性によって行動が変化しますね。目の前にどういう人がいるかで、言い方が変わる、判断が変わる、判断を放棄するということもあります。 日々接する学生たちにも、すぐに「どうしよう?」「どうしたらいいですか?」と判断を他者に委ねる傾向が見られます。「ああ言ったらどう思わいます。そのためには自己決定のステップを身につける機会を、計画的に用意することが必要です。特別活動に含まれるホームルーム活動、生徒会活動、学校行事を意識的に活用するのです。 日本人の対人関係において、自己主張する人は自己本位であると考えられてきました。佐藤淑子氏の著書『イギリスのいい子、日本のいい子』によれば、イギリスでは幼児の喧嘩に親が介入するそうです。「なんで喧嘩をしたの?」「何を言いたかったの?」「相手と何が違ったの?」と確認をすることで、自己主張の訓練をするのです。 この本にはもう一つ印象的な言葉がありました。「自己の意思や気持ちを表現すればかなりの確率で他者に受け入れられることが明らかになった時、人は初めておずおずと自己表現をはじめる」。まさにこれが学校において目指す集団の姿であり、特別活動でれるかな?」ということを気にして情緒的な判断をする。意思決定における、論理性がない。価値の優先順位を決められないのです。 残念ながら学校もそういう教育をしてしまっていますよね。「静かにしなさい」「言うことを聞きなさい」「周りを見なさい」…学校でよく聞く言葉ですが、これからの社会を生きていく子どもたちが、このまま言われたことには従順だけれど「決められない」「自己主張できない」で良いのでしょうか。 このたびの学習指導要領改訂でも、予測困難なこれからの時代に目指す子ども像として「前文」が設けられました(図1)。幼児か児童か生徒か以外の表現は幼小中高すべてに共通しています。「自分のよさや可能性を認識する」というのは自己認識をもつことであり、ある意味では自己主張です。「あらゆる他者を…尊重し」というところは自己抑制と言えるでしょう。 新しい学習指導要領では、特別活動についても集団や社会の形成者としての見方・考え方として「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」が示されました。自己実現とは、自分の欲求や要求を実現することと、社会の一員としての認知の両方があって成り立ちます。これを両立できるのが特別活動であり、学校における集団活動は、この両面を人間関係の中で育成するものです。 自己決定とは、単に自分がこれをしたいと決めることではなく、自己主張と自己抑制の調和のとれた状態をさすことも、指摘しておきたいと思います。 では、生徒が自己決定できるようにするために、教師は何ができるのでしょうか。私は、自己主張ができ、共感的な土壌づくりが必須と考えて自己決定ができる環境をいかにつくるか日本の子どもはなぜ自己決定が苦手なのか自己決定は自己主張と自己抑制の調和自己主張ができる共感的な土壌を特別活動でつくる学習指導要領前文図1一人一人の生徒(幼児・児童)が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値ある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。自己決定の連続が人格をつくる 須藤 稔 (國學院大學栃木短期大学 特任教授)312019 MAY Vol.427

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