キャリアガイダンスVol.427
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※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のもの様性があります。自分一人では難しいことを、多様な力を組み合わせて成し遂げたという経験は、社会で自分の個性を活かしていくことにつながるのではないでしょうか」(菅野校長) 学科間の連携を強化するため、教職員の組織も工夫した。17年度より、学科長を束ねる「学科統括」という役職を設置。その任に就いている篠﨑昌彦先生は、現在の連携状況についてこう語る。 「教職員の話し合いで頻繁にあがる言葉が『これは生徒のためになるか、自信につながるか』。学科が違っても視点は同じです。お互いの専門性を信頼し、日常的に情報交換や相談をし合っているので、同じ方向性で連携できているのではないでしょうか」 さらに、今後は学年間の連携にも力を入れていくという。その先駆けとなったのが、18年度、農業経営科の2・3学年合同チームによる、矢高ブランドのりんごジュース開発プロジェクトだ。 「2年生がプロジェクトをリードすることで先輩としての自覚を育み、1年生は先輩の姿を目標にするという、学びの多い活動になりました。こうして先輩から後輩へと引き継いで発展させていくような、継続性のある活動を増やしていきたいですね」(篠﨑先生) こうした地域社会における数々の実践経験を積む同校生徒を見て、篠﨑先生は「専門分野の実践力が育っている」と語る。その力を地域の人に認めてもらう機会が豊富にあり、活動成果のコンテストに入賞したり、活動の様子が地方紙や地方局で紹介されることも多いなか、生徒の意識も前向きに。入学時は内向的だった生徒が、地域での活動のなかで自信をつけ、クラスや部活動でリーダー役を担うようになった例もあるという。 実践のなかでは当然、思うようにいかないこともあるが、「失敗するからこそ深い学びがある」と篠﨑先生。失敗経験から自らの勉強不足を知り、勉強に励むようになるケースも少なくない。 近年、学科に関連する分野への就職・進学が目立つという。その背景には、生徒自身が高校の学びと進路を結び付ける選択をするようになったことに加え、専門性を活かした地域活性化活動の経験が面接試験などで評価されていることが考えられる。 「本校が重視しているのは『人とのつながり』です。たとえ自営業でも、一人では生きていくことはできません。本校での経験を活かし、地域のさまざまな人とのつながりを卒業後も大切にしていってほしいと願っています」(篠﨑先生) 今後も同校は新しいことに挑戦していく方針だ。多彩な活動のラインナップは、質と量の観点から毎年見直される。5年間続けたデイサービスも、一定の成果を上げたとして終了し、19年度は新たな活動を模索中だ。 「同じ事を毎年繰り返すだけでは、生徒も学校も成長していきません。常に次の一手を考え、取り組みを進化させていきます」(菅野校長)校長菅野光広先生学科統括・進路指導部篠﨑昌彦先生人とのつながりのなかで成長のきっかけを掴む教頭滝澤幸憲先生地域とのつながりのなかで将来像が具体化●今年度、初めてJAまつりに参加して、自分たちが育てたシクラメンとりんごを売りました。販売開始と同時に一気にお客さんが並び始めて、1時間もしないで売り切れに。自分たちのやっていることがこんなに地域の方に喜ばれるのだとわかりました。 私はいちごが大好きなので、卒業後はいちご農園に就職するのが目標です。そこでおいしいいちごを育てるだけでなく、地域の方たちが気軽にいちご狩りに来て楽しんで元気になっていただけるようないちご園をつくりたいと思っています。(農業経営科2年・白須麻冬さん/写真右)●実習に魅力を感じて、農業経営科に入学しました。実際に学んでみて、今は花の栽培に面白さを感じていて、3年の「課題研究」ではシクラメンを題材に取り組もうと考えています。 JAまつりの販売実習では、お客さんに「がんばってね」などと声を掛けていただいたのが印象に残っています。地域の方に応援されていることを実感し、人とのつながりやコミュニケーションを大切にしていきたいと改めて思いました。(農業経営科2年・石塚美有さん/写真左)●矢板の良さを広く知ってもらいたいという気持ちで、レトルトカレー開発プロジェクトにリーダーとして参加しました。しかし、プロジェクトは想像以上に大変。最初に作ったレシピは、外部メンバーの方に「矢板についてもカレーについても全然わかっていない」と言われてしまいました。単に「自分たちが食べたいカレー」だったのだと思います。そこから、放課後にみんなで集まって意見を出し合ったり、自宅で味の研究をしたりして、自分でも納得のいくレシピができました。 地域のメンバーの方から厳しい指摘もたくさん頂きましたが、その裏側に温かい気持ちを感じることができ、素直に感謝しています。大変だったけれど、その分やりがいは大きかったです。この経験を通じて、たくさんの方の意見を聞き、全体を見通して一つの方向にまとめていく力がついたと感じています。 卒業後は県内の食品工場に就職します。将来的にはみんなに喜んでもらえる商品を開発する仕事をしたいという目標をもって、がんばっていきたいと思います。(栄養食物科3年・山田真生さん/写真中央)● 特色ある学校づくりの中心になっている地域連携は、学校全体の取り組みとして地域に深く浸透している。● 初めての試みとして、地域連携成果発表会が開催され、生徒のすばらしい発表を見て感動した。今後も引き続きこのような連携を続け、地域に貢献してほしい。● 起業家精神育成事業において、コンペティションで選ばれた電子科と社会福祉科と連携した取り組み(介護用スプーン、視覚障がい者向けの段差検知白杖)は、総合選択制専門高校としての強みであり、今後もこのような連携を継続してほしい。● 農業後継者や社会福祉従事者については社会問題になっている。このような学校の取り組みを企業のシステムづくりや地域就農等の受け皿の整備の参考にしたい。(学校評議員アンケート、地域連携成果発表会アンケートより)図2 同校の取り組みに対する地域の声492019 MAY Vol.427

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