キャリアガイダンスVol.427
50/66

 幕末期の東海地震によって倒壊したまま明治を迎えた掛川城は、1994年、市民の願いが叶い140年ぶりに木造天守閣が再建された。掛川西高校が位置するのは、天守閣のふもと、城内の「お花畑」とされた場所。城は市民にとって町のシンボルであり、掛川西高校の生徒たちにとっても高校生活を語るときに欠かせない風景だ。 そんな城に、大型プロジェクターを使って映像を投影するプロジェクションマッピングをやりたい、イベントを開催して地域を盛り上げたい、という声をあげたのは今春卒業した生徒の一人。学校に導入したiPadや無線LAN環境の活用が進むようにと招いた専門家から、直接指導を受けていた生徒の有志グループに、ICT推進委員長の吉川牧人先生が「何をしたい?」と問いかけたときのことだった。 「彼らには最初から『地域を盛り上げたい』という気持ちがあったんです。掛川市外から通っている生徒も多いのですが、伝統ある高校として地域の人たちが期待をしてくれている、応援してくれているということを生徒たちは感じています。だから、恩返しをしたいと思ったのです。何か楽しいことをしたい、だけでない発想が嬉しかったです」と吉川先生。 とはいえ、生徒と地域との接点はそれまでほとんどなく、進学で外に出たら戻ってくることも少ない。吉川先生自身も掛川の人たちとの関わりはまったくなかった。 生徒の志やよし、しかし、どうしたら実現するのか。そもそも掛川城は誰が管理しているのかすらわからないところから商工会議所を訪ね、市役所に連絡を取り、高価なプロジェクター手配に力を貸してくれそうな企業をあたりと吉川先生は動き始めた。 「市長、教育長はじめ、市役所にも企業にも卒業生がたくさんいます。毎日のように町に出ていたら気づけば友達だらけ、みたいになっていました(笑)。私自身は卒業生でも掛川市民でもないのですが、しがらみがないからうまく話を進められることがあることもわかりました」 技術指導は専門家に依頼をした。吉川先生には、かつて女子バレーボーiPadを手にした生徒が言い出した「やりたい」地域とのつながりづくりに教師が奔走きっかけは、ICT活用推進のために始めた希望生徒向けの講座でした。ツールを手にした生徒たちからやってみたい、と声が上がったのは校舎から毎日見上げる掛川城でのプロジェクションマッピング。地域の人たちと協働し、2年目には大きなイベントに成長しました。生徒の「やりたい」から始まった地域をPRする掛川城プロジェクションマッピング取材・文/江森真矢子掛川西高校(静岡・県立)第19回写真提供/鈴木聖人

元のページ  ../index.html#50

このブックを見る