キャリアガイダンスVol.427
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ち寄り、おのおののペースで企画・実行します。年末の最終発表会で学校代表に選ばれると、マイプロジェクトアワード地域ブロック大会へのチケットが授与されます。 障がい者スポーツに取り組んだのはタケルさん。2020年、東京オリンピック・パラリンピックに自分も参加してみたい。動機はそんな素朴な気持ちでした。 舞台裏を見てみましょう。金堂宏昭先生に尋ねてみると、入学して一年が経った時点でも、タケルさんと実際に顔を合わせたことはなかったといいます。不安はないのでしょうか。 「チャットツールで常時つながっているので、つまずいたときはすぐにメッセージします」。なるほど、ネットの高校の学びを支えているのは、ネットでつながっている信頼関係でした。いつでも先生に相談できる安心感さえあれば、離れていても動き続けることができます。「ただしネット越しだと、ぐっとモチベーションを引き出びを経験しないまま高校生になり、そして高校卒業後の進路に迷うことになります。ミウさんはまさに進路に迷う当事者でした。 後輩たちにはこんな思いをさせたくない、ミウさんは島じゅうを駆けめぐり、多様な人生を歩む人を探します。島の大人たちはミウさんのことを小さな頃から知っているので、協力者はどんどん増えました。ついに小中学生に向け、先輩たちの体験談や勉強の大切さを伝える進路イベント「島っ子ゆめプロジェクト」の開催にこぎつけます。 「生徒の話を聴くことが、とにかく大事。生徒は勝手に答えを得て、また地域に飛び出していきます」。末吉先生はそう語ります。「地域とは常日頃からコミュニケーションをとっているので安心。島だからこそのやり方かもしれません」。学校と地域との信頼関係で生徒を支えているのが、三宅高校です。 一方、その対極にある常連校がネットの高校・N高校です。開校4年で急速に入学者を伸ばし、今や全国各地で全校生徒9727人が学んでいます。 N高校には、希望者が参加する「N高マイプロジェクト」というプログラムが用意されています。責任者は鈴木 健さん。生徒はそれぞれ取り組みたいテーマを持すのは難しいんです」 タケルさんにとって、ターニングポイントは夏休みだったそう。プロジェクトを前に進められず行き詰まっていたころ、学校の勧めで参加したのが桜美林大学のサマープログラム。そこで他校の同世代、大学生、リオパラリンピックを経験した専門家と出会うことで、行動へと踏み出すようになります。そして始まったタケル君のマイプロ「2020意識改革」は、ブラインドサッカー選手に取材を申し入れるところから始まります。取材だけでは終わりません。横浜のブラインドサッカーチームに所属することを決め、一緒に練習し、小学校訪問のボランティアにも参加します。 そこで学んだのは「目が見えなくても人生を楽しめる」ということ。かわいそう、と思っていたタケルさんの気持ちが変わり始めます。今は「スポーツを通して障がい者のことを知ってほしい」と、健常者に向けたブラインドサッカーの体験会を企画し始めました。 島の高校とネットの高校、両極端のマイプロアワード常連校に共通しているのは高校生の安心感です。自分は応援されている、困ったときには受け止めてもらえるという安心感。Google社の職場環境づくりには、ハーバード大学のエイミー・エドモンソン教授が提唱した「心理的安全性」という考え方が取り入れられているといいますが、両校の環境に通じるものがあります。 高校生のアクションが生まれる環境には何が必要なのでしょうか。探究学習とは、答えのない暗闇へ生徒たちを誘う営み。そこから光を見出すために、まずは学校や地域の心理的安全性を確かめてみることは必ずや有効でしょう。高校生が地域や身の回りの課題や気になることをテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通じて学ぶ探究型学習プログラムです。マイプロジェクトでは、プロジェクトのテーマ設定に対する「主体性」と、たとえ小さくても実際に「アクションを起こす」ことを大切にしています。https://myprojects.jp/顔を合わせなくても、ネットでつながっているハーバード大教授が提唱する心理的安全性ネット上で開催されたN高ネットコースのマイプロ発表会(2018年12月)N高校キャリア開発部PBL課長鈴木 健さん三宅高校教諭末吉智典先生三宅島で開催したミウさんの進路イベント(2018年9月)※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のもの※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のもの532019 MAY Vol.427

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