キャリアガイダンスVol.427
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HINT&TIPS1知識を自分のものにすることができるよう学んだことを自分の言葉で表現させる今田先生の授業では、冒頭で前回学んだことを生徒が隣同士で話し合うほか、今日の学習内容についても3人組でおのおのが調べたことを説明し合って理解を深め、最終的にホワイトボードやホームページにまとめて発表している。そうした活動で、生徒が知識を自分のものにすることを狙っている。2情報を取捨選択する力を鍛えるためにあえてたくさんの情報を提供する3人組による調べ学習では、今田先生は意図的に分量多めのプリントを生徒に提供。また、生徒がパソコンを使ってインターネットで情報収集することも推奨している。情報があふれるほどある現代社会において「必要な情報とそうではない情報を取捨選択する」という力を高めてほしいからだ。3ICTの使い方を生徒が自力で学ぶようにあえて大雑把な運用を心がける今田先生の保健の授業では4月からグループでパソコンを使うが、細かいレクチャーはせず、インターネットで調べるときの注意点を用紙1枚で最初に示すほかは禁止事項も設けず、どう使いこなすかは生徒にゆだねている。生徒は最初こそ手間取るが、互いに教え合ってどんどん使い慣れていくそうだ。4体育でも3人組やICTの活動を導入振り返る力や相手のために伝える力を育む今田先生はマット運動などの体育でも、3人組で気づいたことを言い合う活動や、タブレットで動画を撮って動きを確認する活動を始めた。「ダメ出ししたら相手が傷つくかも」と怖がる生徒もいるので「相手のために指摘する」「指摘を前向きに聴く」関係をお互いに築いていこう、とも強調している。■ INTERVIEW 今田先生とは授業の展開の仕方やテストの在り方について、普段から情報交換しています。例えば、今田先生はICTに詳しいので、私が授業への活用の仕方を相談したり。共感しているのは、今田先生がただ学校のICT環境を整えればよいとは思っていなくて、「生徒が将来『自分でICTを使いこなせるようになる』にはどう触れさせればいいか?」を考えていることです。授業で使える、というのがゴールではない。 また、今田先生は保健のテストを論述に切り替えたのですが、そこでは僕のほうからもお伝えできることをお話ししています。論述テストは、採点が難しく時間もかかる、という点がネックなのですが、僕自身、以前から、社会科のテストで『自分で考えて書く』ことを生徒にさせたくて、設問や採点の仕方を試行錯誤してきた経験があったからです。 生徒が面白がって自学自習するような本質的な学びにどうつなげるか、その方法論的なことは教科が違っても共有できると思っています。地歴・公民科加藤弘輝先生本質的な学びにどうつなげるかは教科が違っても情報交換できる 今田先生は、もともとは教師になるつもりがなく、スポーツを学ぶために体育大学に通っていた。それでも一応教員免許は取ろうと教育実習に行ったら、「生徒とできた喜びを共有する」醍醐味を知り、これが天職と感じたそうだ。大学卒業後、1年間の公立中高の非常勤講師を経て、広島女学院中学高校の教師になった。 だが、天職と思った教師の仕事は、必ずしも順風満帆とはいかなかった。 勤めて4年目には、指導の在り方を根本から問われる失敗を経験する。生徒ができるようにと懸命に指導するも、生徒には単なる押しつけにしか過ぎないこともあることを経験したのだ。このままではダメだ、何かを変えないと、と思った今田先生は教育コーチングを学んだ。 「そこで出会ったのが『人は育とうとする生き物だ』『人は自分の中に答えをもっている』という考え方でした。これだ、と思ったんですね。それまでの僕は傲慢にも『人は変えられる』と思っていました。だから『生徒の行動を自分が管理して変えよう』とした。でもその変化は見せかけで長続きしません。大切なのは『生徒が自分で気づいて変わろうとする』ことで、教員にできることがあるとすれば、そうした気づきが生まれるきっかけを与えることではないか、と思うようになったのです」 保健の授業でも紆余曲折があった。 新人の時は、先輩が用意してくれた台本的なものをただなぞるような講義。 それでは生徒に失礼だ、と2年目からは保健の教材研究に取り組み、プリントも自作し、説明に力を入れた。 「でも、こちらの話にあまり興味がなさそうなんですよね、生徒たちが(笑)」 保健の授業に真剣になったからこそ悔しかったし、モヤモヤしたが、しばらくは打開策を見出せなかったという。 転機となったのは3年前。教員8年目にして、たまたま保健の授業の担当から1年間外れたことだ。これを区切りに、今田先生は「来年度から授業をガラッと変えよう」と決心した。そして校内外の研修でアクティブ・ラーニングの手法などを学び、校内では他教科の先生とも話し合い、授業のやり方を研究した。 そうして確立されてきたのが、「教員はほとんどしゃべらず、生徒がいっぱいしゃべって自分で気づきを得ていく」という今の指導のスタイルだ。 「グループ学習中心にしたというだけでなく、例えば、授業ではICTの活用を進めているのですが、使い方をいちいちは説明せず、大まかなやり方だけ示し、あとは生徒たちが適切な使い方を見つけ、教え合うのを待っています。他に学級でも、終礼前に席につかず騒いでいる生徒がいても、僕からは極力指示を出さず、見守っています。気づきを待つ、ということを意識するようになったのです」授業ができるまで「教師が生徒を変える」から「生徒が自ら育とうとする」へ教師の指示・説明を減らし生徒の気づきを待つように復習にWebサービスを活用したクイズを行うことも。問題作成、音楽付きの出題、制限時間内での解答、成績表示と優勝チーム発表まで手軽にでき、生徒も毎回楽しんでいるという。582019 MAY Vol.427

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