キャリアガイダンスVol.427
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はない生徒は、志望大学・学部がなかなか決まらない。生徒が時間に追われているのは本校も同じです。杉山 うちは大学の附属校で、8割以上が親大学に進学します。ですから他校と比べ、進路選択に迫られているわけではありません。その分、ゆとりがあるのに、自分と向き合う時間があるかというと疑問で、これからの課題として残っています。黒瀬 もう一つ、「決められない」理由としてその方があげたのは、「一度失敗するとやり直しがきかない社会だからでは」ということでした。「失敗しても何度でもやり直しができる社会であれば、決めることを躊躇しないはず。失敗できないから、決めることを避け、親や先生の言うとおりにするのでは」と。鋭い指摘でした。林 私も含め、教員が無自覚的に「正解」を押しつけているところがあるかもしれません。生徒に「好きなようにしろ」と言いながら、それが教員の考える「正解」から外れていると、つい「それはどうかな」と否定してしまう。そんなやりとりが小さいころから積み重なることで、自分で決めなくなってしまう。もしくは、大人が求めている答えを探ったり、自制したりする。そうやって枠にはめているところもあるような気がしています。黒瀬 親は「良い大学、良い会社」と期待しますが、そうした昭和型のモデルは既に崩れかけています。一方で、「AIの進歩で近い将来、今の職業は半分なくなる」みたいな報道もされています。これでは生徒が混乱するのも無理ありません。宮永 教科指導や部活動指導は得意で力が入っても、進路指導やキャリア教育には関心が薄い人が多いように思います。教員自体が社会の変化に追いついていないのでしょう。杉山 調査結果(図1)では、進路指導上の課題の1位が「進路選択・決定能力の不足」になっていますが、僕自身は、生徒のこのような能力が不足しているとは思っていないので、正直ピンときていません。確かに幼い生徒はいますが、目標をもった生徒は、自らどんどん決めていきます。多様化した生徒一人ひとりに対応しきれていない教員の責任も大きいのではないかと思っています。―そもそも、「決められない」となにが問題なのでしょうか?黒瀬 私の息子はサッカーばかりしていて進路に無関心。高3になってようやく「教員にでもなるか」と言って勉強を始めました。でもそれは、親や先生から示したような選択肢だったため、身が入らず受験もうまくいきませんでした。そこで初めて「自分は何がしたいか」を真剣に考えた結果、目標が見つかり、人が変わったような予備校生活を経て、第一志望に合格しました。自分で決めたときのエネルギーはやはりすごいと思いました。林 目標を見つけたとき、力を発揮するのは毎年感じるところです。担任が「この成績では難しい」と思っていても、信じられない伸び方をする例は数え切れません。黒瀬 もちろん、第一志望に届かない子も大勢います。でも、自分で決めてやりきった子の表情は晴れやか。失敗や挫折を経験した子は強い。絶対に次のステージに活かされますよ。杉山 本校の生徒は真面目なので、大学生活もしっかり送るし、就職も順調。でも「あの会社、辞めました」と聞かされることもあるんです。つまり、最初の大きな挫折が20代の半ば過ぎに来ることがある。そのとき、困難に動じず、立ち向かうためにも、小・中・高とトライ&エラーを繰り返す機会をつくる必要があると思います。―進路選択を中心に、高校生個人が何かを決めることの意義と難しさ決められない状況にしているのは、変化に対応しきれていない私たちではすぎやま・ひろゆき●担当教科は地理歴史科(日本史)。入試広報部主任。アクティブ・ラーニング・ワーキンググループ主任。野球部および歴史社会研究会顧問。専修大学兼任講師。「5年間担任から離れているのですが、附属高校の教員としての立場からお話しできればと思っています」専修大学附属高校(東京・私立)杉山比呂之先生みんなで「決める」とはどういうことか?テーマ2

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