キャリアガイダンスVol.428
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キャリアとはつながりであり、積み重ね。さまざまな経験を振り返り、つなぐことで自分という存在が見えてくる単につなげるのではなく、そこには連続性がなくてはいけません。自分という存在が、これまでもいて、これからもいつづける。そのように、一人一人の子どもの中でつながりを認識できることが大事なのです。 つながり、連続といっても右肩上がりの直線ではありません。途中、大小無数の段差があったり、高い壁もあったりします。それを乗り越えていくわけですが、その前と後ろで、まったく違う自分に変化するわけではありません。それまでの自分に、新しい何かが積み重なっていくような感覚です。よく「キャリア」は荷車の「轍」に例えられますが、筋道であるとともに、そこに至る過程で荷台に積んできたものすべてと言っていいでしょう。 そうやって、いろいろなものをつなぎ、積み重ねながら、自分で自分を形づくっていく。それこそ、学習指導要領にも登場する「一人一人のキャリア形成」なのだと思います。 私の住む仙台市では、「社会を支える25歳を目指して」をキャッチフレーズに、2006年から「仙台自分づくり教育」を推進してきました。中学生による3〜5日間の職場体験活動を核とした仙台版キャリア教育です。 取組をはじめて10余年、当時、中学2年で職場体験活動を経験した若者と話す機会を得ました。皆しっかりした青年に成長していて、まさに「社会を支える25歳」だと感じました。全員が当時の体験をよく覚えていて、何かしらの影響があった様子。気付きや学びをつなげることで、自分をつくる取組だったと思います。 ただし、職場体験活動は、キャリア教育の取組の一つでしかありません。本来、キャリア教育は教育活動全体で基礎的・汎用的能力を育むものです。学校内でその中心となりうる場となると、一人一人の生徒に働きかけやすい担任を中心としたホームルームを置いて他にありません。やはり特れた新しい学習指導要領の総則において、「特別活動を要としつつ各教科・科目等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること」と明記されました。 学校教育におけるさまざまな活動を通じて生徒が得た「気付き」や「学び」を、特別活動を中心につなぎ、積み重ねていくという、これまでキャリア教育が大切にしてきたことが、ついに明記されたわけです。 なぜ、つなげるのでしょうか。つなげるとどうなるのでしょうか。 つなげると、それまでバラバラに思えたことが、まとまって見えてきます。そして、「そう感じる自分って何なんだろう」と、次第に自分というものも見えるようになってきます。 さらに、小・中・高と段階をまたいで、それらをつなげていくことで、より一層、自分が見えてくるはずです。教科やさまざまな体験で得た気付きや学びをつないでいく※高等学校学習指導要領(平成30年告示)第5章特別活動よりホームルーム活動の内容図1ア 学校生活と社会的・職業的自立の意義の理解現在及び将来の生活や学習と自己実現とのつながりを考えたり,社会的・職業的自立の意義を意識したりしながら,学習の見通しを立て,振り返ること。イ 主体的な学習態度の確立と学校図書館等の活用自主的に学習する場としての学校図書館等を活用し,自分にふさわしい学習方法や学習習慣を身に付けること。ウ 社会参画意識の醸成や勤労観・職業観の形成社会の一員としての自覚や責任をもち,社会生活を営む上で必要なマナーやルール,働くことや社会に貢献することについて考えて行動すること。エ 主体的な進路の選択決定と将来設計適性やキャリア形成などを踏まえた教科・科目を選択することなどについて,目標をもって,在り方生き方や進路に関する適切な情報を収集・整理し,自己の個性や興味・関心と照らして考えること。(3)一人一人のキャリア形成と自己実現菊池武剋 (東北大学名誉教授)学びをつなぎ、未来へつなぐ 「特別活動」Message352019 JUL. Vol.428

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