キャリアガイダンスVol.428
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392019 JUL. Vol.428誌上 進路指導ケーススタディ 進路に迷う生徒は、どこでつまずいているのか?進路指導を行う際、生徒の状況を理解したり、相談の展開を考えるうえで、知っていると役立つ基本的な理論がいくつかあります。この連載では、その理論が実際の進路指導にどのように役立つのか、若い先生方にも理解していただけるよう、ありがちなケースをもとに、その展開を考えていきたいと思います。今回は、「マズローの欲求階層論」を取り上げます。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆうこんなケース1職業を調べていたら、何を基準に選べばいいのかわからなくなった生徒2求人票を見ながら、福利厚生などの条件だけで職業選択しようとする生徒3進路希望調査の記入を見ると、ブランドや知名度だけで学校選択している生徒第11回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤 勇人先生 【監修&アドバイス】自己実現の欲求承認の欲求所属と愛の欲求安全の欲求生理的欲求 「マズローの欲求階層論」は、アメリカの心理学者、アブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow)が、1943年に発表した「人間の動機づけに関する理論」の中で初めて公表した理論です。 人が行動を起こす動機として共通する本質的・根源的なものを示したもので、さまざまな動機づけ研究や経営学、キャリア理論など、幅広い領域に関連する心理学の基礎的な概念として有名になりました。「マズローの5段階欲求」と記憶されている先生も多いと思いますが、実は、マズローは5段階と明言していません。実際、その後の研究などで、「自己実現の欲求」はさらに二つに分かれると発表しており、その意味では6段階にとれるともいわれています。しかし、いずれにしても、人が何か行動を起こす際の動機となる欲求には階層があり、低次なものが満たされるとより高次なものへの欲求が生まれるという考え方が基本となる「欲求階層論」として定着しています。 その階層としては、まず、食べたり睡眠をとるといった生命維持に必要となる「生理的欲求」があり、それが満たされると、身の安全や身分の安定、不安や混乱から逃れる「安全の欲求」が現れます。そして次に、家族や友人、仲間など、他者とのつながりや共同体の一部であることを実感したい「所属と愛の欲求」となり、自尊心や他者からの評価を求める「承認の欲求」につながります。これらの欲求は、満たされるとさらに次の欲求、より高次な欲求を求めるようになり、最終的により一層自分であろうとする「自己実現の欲求」につながると示されています(図1)。図1 マズローの欲求階層論進路指導に役立つ理論●マズローの欲求階層論マズローの欲求階層論を、一般的にわかりやすく図にしたもの。「生理的欲求」から「承認の欲求」までは欠乏していると求める「欠乏欲求」だが、「自己実現の欲求」は自ら求める「成長欲求」である。理論を活かす

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