キャリアガイダンスVol.428
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402019 JUL. Vol.428生徒:なんか、いろいろ調べたら、逆に自分が何を基準に選んだらいいのかわからなくなってきた。先生:例えば、どんなことで迷っているの?生徒:え~。やっぱ生活のこととか、土日休みでお給料もそこそこ良さそうで、なんか潰れなそうなところっていったら、金融とかいいかなって思うんだけど。でも、仕事がそんなに面白そうかっていうと、よくわからないし。逆に、旅行とかホテルとか観光関係のような人が直接喜んでくれる仕事って面白そうだなって思うけど、土日は仕事で生活が不規則になりがちだっていうし。先生:将来的に、仕事を選ぶために大事にしたいことは何かあるかな?生徒:う~ん、やっぱり仕事ばっかりじゃなくて、生活も大切だと思うから、なるべく残業が少なくて、ブラックじゃない仕事がいい。先生:ブラックじゃない仕事って、どんなものだと思う?生徒:仕事っていうか、会社かな。安定しているところがいいし、研修もしっかりしていて、休暇とかもとりやすくて。公務員とかいいかな?先生:この大学や学部を選んでいる理由は何かな?生徒:やっぱり、いい会社に入るには偏差値の高いところに行ったほうがいいって親にも言われて。どうせなら、このくらいのレベルのところに行っておけば将来も安心かなって。だから、学部は、文系ならどこでもいいかなって思っています。先生:この大学だからこそ挑戦してみたいことは何かあるのかな?生徒:え~。別に。とりあえず、難関大学に入れればいいやって思っているけど。ケース1ケース2ケース3職業を調べていたら何を基準に選べばいいのかわからなくなった生徒求人票を見ながら福利厚生などの条件だけで職業選択しようとする生徒進路希望調査の記入を見るとブランドや知名度だけで学校選択している生徒自分が必要とする欲求の整理を促す 「生理的欲求」から「承認の欲求」までは、それぞれの欲求が満たされていないと心身が不安定になったり、病気になったりすることから、「欠乏欲求」であるとマズローは指摘しました。一方で、「自己実現の欲求」は、これで満足という終わりのない「成長欲求」であると言います。ケース1の生徒の場合、欲求階層の低次の欲求と高次な欲求の間で揺れ動いていると考えられます。このような生徒には、まず、それぞれの段階で、どの程度満たされたいと考えているか、どのように満たされたいと思っているか、気持ちや考えを整理していくと、自分が何を大事にしたいかが見えてくる可能性が高いでしょう。福利厚生だけではいずれ満足できなくなる欲求階層は流動的広く捉える必要もある 働いた経験がなく、仕事に否定的なイメージを抱きやすい生徒は、職業選択=生きるための収入確保として、「生理的欲求」「安全の欲求」など低次の欲求を満足させることに終始しがちです。しかし、マズローは、これらの欲求が満たされると、次第に高次な欲求が現れると言います。「もっとやりがいのある仕事をしたい」という転職理由などは、その典型と言えます。また、マズローは欲求の階層と健康度には相関関係があると説きました。基本的な欲求がどの程度満足されたかと、心理的健康度は正の相関関係があるのです。 このような生徒には、長い将来を考えた広い視野を持たせてあげましょう。 マズローの欲求階層は、固定的なものではなく、必ず低次の欲求が満たされないと高次の欲求が現れないというものではありません。このケースの生徒は、周囲からどう評価されるかといった「承認の欲求」が強く出ている典型です。このように個人差があり、流動的なものであるのは、人の欲求ならではと言えるでしょう。しかし、進路を選択するには、偏った欲求だけではなく、どのように仲間とつながっていくかという「所属と愛の欲求」やより自分を追求していく「自己実現の欲求」など、多様な見方で考えることも大切です。欠けていると思われる視点を確認するためにも、欲求階層の概念は活かせると言えます。
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