キャリアガイダンスVol.428
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 東シナ海に広がる五島列島、人口約3万4000人の福江島にある五島高校では、4年前に総合的な学習の時間を大きく変えた。スタートした「バラモンプラン」は身近な地域の課題から自分の将来を考え、社会で活躍できる資質・能力を身につけ「五島に戻ってきて活躍する」「五島に戻ってこなくても五島のことを考える」生徒を育てるキャリア教育だ。 校長から担当を任された樫本英人先生は「学校が生徒を囲い込み勉強だけさせてほんとうに将来を生き抜く力がつくのか、ずっともやもやしていました。これから必要なのは自分で考える、自分で企画する、そして実行する力ではないか。学校と社会がシームレスにつながる方法はないかと考えていました」と言う。 初年度に実施したのは、1年生で五島の現状を知って五島を元気にするアイデアを考え、2年生で「仮想五島市長選挙」に向けて8つの政党を作り投票まで行うというプログラム。市や議会、地域振興局、大学などと協働し、生徒がたくさんの大人と関わるのが今にも続く特徴だ。 「地域に出て課題だけ見つけてくる、というものも多かったのですが、生徒たちの反応は『学校でこんなことやっていいんだ!』『楽しい!』と肯定的で、手応えがありました。ただ、生徒は思ったよりも五島を知らず、視野が狭いこともわかりました」 そこで、翌年は1年生で島内外から講師を招く講演会を10回実施し、たくさんの大人や社会課題に触れることから始めた。そして、3学期から2年生にかけて「自分の好きなこと」と「社会」の重なるところから研究テーマを探す「社会探究型課題研究」に内容を変更した。 地域課題に取り組む行動力ある大人と出会うと、「何か自分たちにもできるかもしれない」と火のついた生徒たちは動き始めた。動き始めた先輩や同級生を見て、次に続く生徒が現れた。そして今、五島高校には小さくてもアクションすることから自分たちの作りたい社会を作ろう、と、生徒発のプロジェクトが続々と生まれる文化が根付きつつある(下参照)。 プロジェクトの一つは、廃校になった小学校を会場にしたリアル脱出ゲーム。地域の小学生から大人までが混在するチームで謎解きをするというもので、約50人が参加した。 授業で大事にしたのは問いを立て何をしたいの? なんで?問いを立てる対話が起点「社会探究型課題研究」を標榜する五島高校の総合的な学習の時間「バラモンプラン」がスタートして4年。授業は週1時間と少ないながら、課外の時間を活用して、地域でイベントを開催するなどダイナミックな活動が数多く生まれています。自ら動き、社会に働きかける生徒たちはどのように育ったのでしょうか。問いと活動の往還で探究の質を高めるバラモンプラン取材・文/江森真矢子五島高校(長崎・県立)第20回趣味でドローンを飛ばしていた生徒たちが、海の清掃活動をするサーファーと出会ったことから、海洋ゴミの調査をしていた同級生たちとタッグを組んでドローンレースを主催。競技を行う海岸を参加者と清掃してその様子を撮影し、ネット上に公開することでより多くの人に現状を知ってもらうことを目指す、ゴミの調査と啓蒙を兼ねたイベント。ビーチクリーンやゴミを使ったアート作品作りなどに取り組んできたチームの集大成。SDGsについて考えるワークショップや、環境に関する宣言文作りなどすべて生徒の企画で実施し、当日は地域の大人や高校生約120人が参加。チームmaiPLAは、全国ユース環境活動発表大会環境大臣賞等を受賞している。農産物をそのまま出荷しても儲からない、担い手が減っている、という現状を知り、付加価値をつけることで一次産業を盛り上げるプロジェクト。ご当地グルメで地域を活性化しようと、飲食業に就くIターン者と共に開発したピザは、特産のキビナゴやトマト、高菜を使ったもの。島内でイベントをするだけでなく、東京の物産展でも販売をした。■ 五島高校生環境シンポジウム(チームmaiPLA)■ 五島ピザ■ 海洋トマトドローンレース大会(チームGOTONE)502019 JUL. Vol.428

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