キャリアガイダンスVol.428
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さんのほうが頼もしくて、妹さんの方が多少ボケている。しかしステージに立つと、その印象がガラリと変わりました。熱量や主体性が圧倒的だったのです。 大好きだったおじいさんが亡くなったことで、ガンという病気のおそろしさに向き合ったまりあさん。その恐怖は、抗がん剤で頭髪が抜けてしまう副作用にもあります。 中学1年生の頃、まりあさんは寄付で集めた髪の毛でつくったウィッグを無償提供する「ヘアードネーション」という取組があることを知ります。髪の毛を伸ばすだけならば、自分にもできるかもしれない。高校1年生まで伸ばし続けた髪の毛をついに寄付したまりあさんは、より多くの頭髪を集め、子どもたちを笑顔にするため「女子高生ヘアードネーション同好会」を立ち上げます。 しかしあるとき、頭髪を寄付する先の団体と連絡がつかなくなってしまいました。その事件には、頭髪は転売すると高在です。2010年に伊谷くんという高校生が同世代の交流を目的に創設し、メンバーは全国100人に達しました。当時最大規模の高校生団体で、全国紙にも何度か取り上げられました。 不運だったのは、その熱気のピークに彼らが企画した慶應義塾大学SFCでのイベントの日付が、2011年3月12日だったことです。前日に日本列島は大きく揺れ、彼らはイベント中止を余儀なくされました。しかしその後、そのイベントに参加するはずだった高校生たちが次世代の高校生団体を次々に旗揚げしていきます。彼らはそれぞれ離れた場所にいながら、スマホで連絡を取り合い、同じ衝動を共有していたのです。自分たちが動かなくては、と。 あれから10年。高校生団体というスタイルは全国に拡がり、全国高校生マイプロジェクトアワードの「個人・グループ部門」は、その登竜門となりつつあります。今年グランプリに輝いたのは、小児がんに苦しむ子どもたちにウィッグを届ける群馬県の高校生団体「女子高生ヘアードネーション同好会」でした。 晴れた3月の陽気のなか、会場に現れたのはキャメル色の制服の二人組でした。まりあさんとゆりあさんは、姉妹で団体を運営しています。明るくて礼儀正しくて、陽気な二人だなという第一印象。お姉値がつくという事情が関係していることを知ります。ショックを受けたまりあさんは、寄付先となるウィッグ会社や病院を自分たちで探す決意をします。 まりあさんの発表で、私が涙をこらえられなかったのは、クラスでの出来事です。活動が注目され、メディアの取材を受けるようになった頃、急にクラスの友達に無視され始めます。つらい学校生活を終えて夜中に帰宅した後、郵便で届いた大量の髪の毛を一人で整理する苦しい日々。涙があふれることもありました。 「今ここでやめたら、私には何もなくなってしまう」 そんな時期を支えたのが、妹のゆりあさんでした。二人は協力し、一心同体で活動を続けます。子どもたちからの感謝の声や、頭髪とともに寄せられる応援メッセージが、二人の心の支えとなりました。あのとき挫折しなかったからこそ、団体は今でも続いています。まりあさんが高校を卒業した後、妹たち後輩世代が活動を引き継ぎました。今では700人からの頭髪を託される規模になりました。 高校生団体から話を聞く限り、こうした悲しい事例は少なくありません。クラスの友達だけでなく、先生や親に反対されたというケースもあります。活動を辞めないかぎり指定校推薦は出せないと言われた高校生も知っています。 彼女たちのような高校生を孤立させないため、私たちはマイプロジェクトアワードに「文部科学省後援」という冠をかかげています。社会はあなたを応援しているよ、と大きな声で叫ぶためです。 ちなみにまりあさんはこの春から、国立大学の医学部で学んでいます。きっかけはヘアードネーションの活動で出会った医師の影響だと言います。本気の活動は、本気の進路選択にもつながります。だからこそ、未知なる課題に挑む高校生を応援する社会を私は作りたいのです。高校生が地域や身の回りの課題や気になることをテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通じて学ぶ探究型学習プログラムです。マイプロジェクトでは、プロジェクトのテーマ設定に対する「主体性」と、たとえ小さくても実際に「アクションを起こす」ことを大切にしています。https://myprojects.jp/女子高生ヘアードネーション同好会の奮闘ウィッグ第一号を提供した児童と(2018年3月)女子高生ヘアードネーション同好会(2018年3月)東京都立小児総合医療センターの医師との話し合い(2018年)※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のもの532019 JUL. Vol.428
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