キャリアガイダンスVol.428
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学校の先生というのは、生徒と共に「未来の社会を創る」ことに今まさに取り組んでいるのかもしれない。大げさな話ではなく、本当にそう感じた、社会課題を自分ごとで捉えていく生物の授業実践をご紹介します。取材・文/松井大助撮影/竹内弘真大学で獣医師免許を取得後、再生医科学研究所での研究を経て、教員に。東京都生物教育研究会では「主体的で深い学び」や「カリキュラムマネジメント」に関わる勉強会の企画・運営を担当。同僚の先生たちと、国語と生物をかけあわせるなど教科横断的授業の開発も進めている。生物佐野寛子先生今号の先生 三つ目は、「この世界は自分たち次第で変わる」という感触を生徒が得ることだ。 「私のやりたいことを簡潔に言い表すなら、『主権者教育』になるのだと思います。身のまわりの生活もこの社会も、自分たちで変えられますよ。だけど、そもそもあなたはこの世界をどうしたいの? 生徒にそう投げかけています」 1年生必修の「生物基礎」の授業で、佐野先生が目指しているのは、自然環境も社会環境も自分たち次第で変わる、という面白さと危うさを感じてもらうことだ。そのなかで生物や自然に魅せられた人は、選択科目の「生物」や進学先でより専門的に生物を学んでほしく、生物と社会のつながりに惹かれた人は、学校設定科目「環境科学」や進学先で、自分たちのどんな行動が社会にどう影響するか学びを深めてほしい、と考えている。 「生物基礎」の1学期に学ぶのは生態系。最初の授業で行うのは、佐野先生考案の食物網ゲームだ。生徒が多様な動植物になり、食べ物となる相手を探し、紐でつながる。すると、世界は一方通行の食物連鎖ではなく、生物同士が網目のようにつながることが見えてくる。さらに「食べ物がなくなった種はしゃがむ」設定で、除 国際高校の佐野先生は、目の前にいない人間や他の生物も思いやる「『やさしい』社会」を実現したいと思っている。そして生徒には、そんな社会を共に創る仲間にぜひともなってほしくて、だからこそ次のようなことを望んでいる。 一つ目は、「自分はこうしたい」という〝I want〞を言えるようになることだ。 「生徒のなかには、やりたいことがなく、親や周囲から言われたままの将来を思い描いている子もいて、ちょっと思考停止だな、と感じることがあるんです。自分は何をしたいのか、生徒が口にしてくれるようになることが、一番嬉しいです」 二つ目は、自分が望むことを実現するためにどんな判断や行動をするか「深く考える」ことができるようになることだ。 「この先をどう生きていくか、その判断・行動は全部生徒に任せたくて、『こうすべき』という押し付けはしたくありません。ただ、自分のしたいことのために判断・行動したことが、本当にそれでよいのか、何を根拠にそう言えるのか、納得できるところまでたどれる力は身につけてほしいのです。いわゆる批判的思考力ですね。例えば『人を救いたい』と思ってやったことが、実際には見えないところで人を苦しめることだってあるわけですから」より良い社会を目指して深く考える〝仲間〞でありたい個々の言動が、自然環境や社会環境を変えることを学ぶ生徒に対する想い授業の実践生徒と一緒に授業を創ることを推進中です生徒を見取って授業をデザイン国際高校(東京・都立)562019 JUL. Vol.428

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