キャリアガイダンスVol.428
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■ 国際高校(東京・都立)鶏の頭を生徒一人ひとりが切断して観察する授業。犬の餌である鶏の頭部の水煮と、冷凍された頭を活用した。脳の切断面をスマホで写真に撮る生徒たち。本日欠席の生徒も含め、あとで生徒同士全員でデータを共有するという。佐野先生が説明したり、お手本を示したりする時間は短めで、具体的な手順はホワイトボードで示されていた。どう切断するかは自由。まわりに流されて決めようとした生徒に「自分の好きな方向で」と佐野先生は念押し。な条約を結べばいいかを考えていきます」 2学期に学ぶのは生物の多様性や細胞、遺伝子。終盤で「遺伝子検査を受けるか」というさまざまな解のある問いを班ごとにお互いが家族のつもりで話し合い、中絶や差別をどう捉えるかも考える。 3学期に学ぶのは体内環境。4人1組で医師役と患者役を交替しながら「病気の症状と治療方針を説明する」という診察ロールプレイングゲームも行う。ポイントは、医師役が授業で学び調べた知識だけで判断して説明すると、患者役を傷つけかねないこと。患者は今後の生活に何を望んでいるのか、相手に寄り添いながら知識を活用することが求められる。 「最終的に3学期に考えてほしいことは、生と死をどう捉えるか、自分たちはどの草剤などである種を絶滅させると、ドミノ倒しのようにさまざまな種に絶滅の連鎖が起こることも生徒が実感する。 1学期終盤には「まちをつくろう」というプロジェクト学習にも挑戦。6チームに分かれ、川の流れる土地の地図に、自分たちの住みたい街を思い描くのだが… 「実はそれぞれの土地は一つのエリアを6分割したもので、お互いの街は影響し合う関係にあり、裏数値も設定しているんです。例えば工場や住宅地があれば排水が出るので、下流の街に水質汚染が出ます、重金属が流れてくるけれど、漁業は大丈夫?とか。そこで授業の後半は、チームごとに各自が公衆衛生や産業振興の担当などになり、自分たちの街では何の改善に取り組み、隣り合う街とはどんように生きるのか、ということなんです」 こうした生徒の「学び合い」を行う土壌として大事にしているのが、それぞれのクラスを一つのチームにすることだ。 「全員が意見を出しやすく、さまざまな意見を受け入れもする環境にしよう、と生徒に伝えています。担任したクラスだけでなく、授業を受け持つすべてのクラスで、学級運営をするような感じです」 「生物基礎」「生物」「環境科学」のどの科目でも、教員主導から生徒主体の授業の創造・実践に変えることも進めている。佐野先生が〝Cチョークhalk-Jジャックack〞と名づけた取組。授業に対する生徒の提案を大歓迎し、生徒と一緒に授業を創っていくのだ。 初歩的なところでは、生徒の学び合いで「あと5分ください」と求められたら柔軟に応じ、全体で内容理解を深める際に「自分が説明してみたい」といったそぶりや発言をした生徒がいれば任せていく。 自分たち次第で授業を変えられることが浸透してくると、「先生に代わって司会進行してみたい」「こんな時間配分でやってみたい」などと思う生徒も出てくるので、その意欲も喜んで買う。さらに生徒がのってきたら、年間の授業計画やそこで招くゲストも一緒に話し合って決める。 実験が多いのも佐野先生の授業の特徴で、生徒主体になるよう「生徒が好きに決める範囲」を徐々に広げる工夫をしている。3年生の「生物」の授業では、1学期に鶏の頭を各自が切断して観察したが、どの方向に切断するかの〝条件設定〞は生徒にゆだねた。味覚の実験では〝調べる対象〞も好きに決めてよく、「フリスクにしよう」「私、シュークリーム」「唐辛子持ってくるわ」とめいめいが宣言した。 生徒が「自分はこうしたい」と表明することに慣れてきたら、2学期以降は、一回実験して気づいたことや疑問に感じたことを基に、生徒が新たな〝課題設定〞を自由に行い、その課題を解く実験計画も立てて探究することに挑む。「私が使っている消毒用ジェルの効き目を調べたい」などという生徒の発案から、みんなで実験計画を立てやってみることもあるという。 「自分で問いを生み、仮説を立て検証する。そんな力を育みたいと思っています」生徒の提案次第で授業だって変わるのを学ぶ日本で育った生徒から、海外から帰国した生徒、在京外国人である生徒など、さまざまなバックグラウンドをもつ生徒が通う。2015年に、海外大学への進学資格が取得できる国際バカロレア(IB)のディプロマ・プログラム(DP)の認定取得。「国際学科」のほか、原則海外の大学への進学を目指す「国際バカロレアコース」があり、いずれにしても国際社会に広く貢献できるような人材の育成を目指している。国際学科/1989年創立生徒数(2018年度) 727人(男子170人・女子557人)進路状況(2018年度)大学189人・専門学校・各種学校2人就職1人・その他29人〒153-0041 東京都目黒区駒場2-19-59 03-3468-6811 http://www.kokusai-h.metro.tokyo.jp/■ INTERVIEW実験をやって、自分で考えてから教科書で「そうか!」と学ぶんです佐野先生の授業では、自分たちで実験して学んでから、あとで教科書を読んで結びつけて、理解したことをノートにまとめるんです。実験レポートには、結果だけでなく自分の考察も書かないと指摘されます。廣瀬澪南さん酒井功雄さん教わるというより自分で勉強しないといけないので、最初は大変だと思ったけれど、実験して考えてから教科書を読んで、「そういうことか!」と発見するのが楽しくて。今ではこういう授業のほうが好きです。藤山瑞稀さん実験して考えてから学んだことのほうが、よく覚えているな、とは思います。佐野先生はテストでも文章をたくさん書かせるので、暗記ではなくきちんと理解していないと容赦なく点数が低くなります(笑)572019 JUL. Vol.428
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