キャリアガイダンスVol.429
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す。先生たちは素晴らしく、本当に子どもたちのために頑張っています。どうすれば、今までのやり方からちょっと変えて、何か少し変化を感じることができるでしょうか。 映画に登場するHigh Tech Highの学びは、プロジェクト学習や哲学対話を中心に構成されています。既存の学校にとっては火星に近いようなもので、まったく別物に映ると思います。急にそのような学校に変えることはできませんが、大切なのは、先進的な先生方が、小さな変化にトライすることです。例えば哲学対話を一回実施し、その経験を積み重ねて先生方の間で共有し、話し合っていくことです。 イノベーションには伝染的な効果があると思います。私は日本人ではありませんが、一緒に想像してみましょう。皆さんの学校で考える成功が実際には失敗だとしたら、もし標準化されたカリキュラムや厳しい学校の規則、環境や子どもへのプレッシャーや、より多くのテストへの準備が、成功ではなく、失敗を誘う仕掛け扉だったとしたら。振り返って教育を考え直す必要があります。本質的な問いは、機械知能が定型的な仕事から我々をます。また、楽しく学んで、それを記憶しています。失敗も恐れずに、何にでも挑戦します。イノベーションが必要な世界では、多くの質問をし、既成概念にとらわれない考え方をする人たちが必要ですよね。私は2015年から16年に、全米50州で200の学校を訪問し、『What School Could Be(学校の可能性)』という本(右下)を書きました。多くのコミュニティで対話をし、学んだことは、教育が機会を切り拓いてくれると信じていたのに、そうならなかった人が大勢いるということです。 多くの人は、新しい学校を作ることで教育課題が解決すると思っています。確かにリソースを集めて新しい学校を解放してくれる世界で活躍するために、子どもたちがもつ、(先ほどの4歳の子どもが示したような)本質的な人間の特徴にあった学校環境をどうつくれるのかということです。目指す教育の方向はわかった、しかし、それはどのように実現されるものなのか。会場との質疑応答でも、その点に質問が集まった。 昨年私はニュージャージー州のある学区に行きました。『Most Likely to Succeed』を20回観たという教育長は、学区の全17校を改革しました。教育委員会、校長、主任教諭、保護者に映画を観てもらいました。そして完全始められたら素晴らしいでしょう。しかし、重要なのは新しい学校を始めることではなく「どうすれば大多数を占める、既存の学校が変われるのか」です。 コミュニティによっても、国によっても解は異なります。人や、社会や、文化はそれぞれ違うからです。しかし、改革に取り組み、うまく行きはじめている、あるいはその兆しが見えてきている複数の学校の話を聞くなかで、いくつかの最大公約数を見つけました。 1つは「人が変えたいと思わなければ学校は変わらない」ということです。そこにいる人が変化したくなければ、どれだけ頑張っても無駄です。すぐに元に戻ってしまうのです。 『Most Likely to Succeed』を観れば、標準化されたカリキュラムや反復ドリル、記憶、テストのための暗記をこなすことにフォーカスすることに疑問を感じます。なぜなら、役立たないだけでなく、子どもにとって良くないということに気づくからです。一度気づくと元には戻れません。学校の中で1人か2人しか信じなければ何も起きませんが、多くの人が信じるようになると変化が起こり始めます。 2つ目は、変革を急ぎすぎると壊れるということです。人はそんなに急に変われないのです。小さな一歩こそが大きな一歩に繋がると提唱していまどうすれば既存の学校が変われるのか本質的な人間の特徴にあった学校環境を作る必要があるディンタースミス氏は全米50州、200以上の学校を取材するなかで、新しく本質的な教育を志向する学校の共通項「PEAKの法則」(コラム参照)を導き出し、あらゆる学校が来るべき未来に向けて変われる可能性について提案した。豊富な成功/失敗例のデータや事例とともに注目すべきは、改革は地域性や学校のタイプを問わずに起こっている現象であり、1つの学校を越えて地域で協働している例も多いこと。地域が一体となった教育改革の必要性も説いている。『What School Could Be: Insights and Inspiration from Teachers Across America (学校の可能性-全米の教師から得た知見)』書籍ディンタースミス氏がエグゼクティブ・プロデューサーを務めたこの映画は、「人工知能(AI)やロボットが生活に浸透していく21世紀の子ども達にとって必要な教育とはどのようなものか?」という問題意識に基づき、PBL(教科横断型のプロジェクト型学習)や哲学対話を学びの中心に置く米国High Tech Highの生徒や保護者、有識者への取材を重ねて制作されたドキュメンタリー。2015年のサンダンス映画祭の公式作品として公開されて以来、 世界35カ国で7000回以上の上映会が開催され、同名の書籍とともに学校現場発の教育改革に影響を与えている。映画と上映会の紹介はこちら:http://www.futureedu.tokyo/most-likely-to-succeed『Most Likely to Succeed(これからの学校の役割)』映画「未来を創る主体」を育む学校づくりへ学校の進化の可能性162019 OCT. Vol.429

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