キャリアガイダンスVol.429
18/66

 特定の高校の改革事例について講演などでお話しをすると、参加者からよく「特別な学校のことでしょう」といった、少し距離を置くような声を聴くことがあります。そんなとき私は、少し残念な気持ちになりながらも、「特別、丁寧に学校づくりをしてこられたことは確かだしなぁ」と思ったりもします。 もちろん、学校改革は教員の心掛け次第でできるものではありません。財政的支援やリソースの配分といった条件整備の現状など、改革への一歩を踏み出しにくくしている構造に目をつむっては持続可能な取組にはなりません。改革の基盤には、単なる精神論ではなく、深い人間観・社会観が支えとして存在していると思います。そうした観点から以下、私が20年以上かかわりをもたせていただいている高校を中心に、話を進めさせてください。● 1996年、国立教育研究所(当時)に籍を置いていた私は、制度化されて3年目の総合学科の成果を調べるため、全国の高校から提供された資料を分析する作業をしていました。その際、高校から届く学校案内等の資料の多くが「総合学科は第三の学科。高校教育改革のパイオニア」といった文部省(当時)や設置主体の謳い文句を並べていることに気づきました。思いが伝わってこないのです。 国主導の教育改革のため失敗は許されないという「無む謬びゅう性の病」にとりつかれていたのでしょう。優秀な、あるいは学校に適応しやすい生徒を集め、一定の成果は出しているようです。けれど、そうした学校も数年経てば、中心的な教員が異動し、改革は尻すぼみに。新しいタイプの高校が陥りがちな罠が繰り返されていると感じました。しかし、ある高校から届いた資料は違っていました。見せかけの成功にとらわれることなく、自分たちの言葉で成果が語られていました。若者を社会に適応させようとするのではなく、共に社会を構築していく存在として捉えていること、しかも理想主義に陥ることなく、現実社会の中でしっかり学ぶ場をつくっていることなど、生徒を主体とした学校改革を進めている様子が伝わってきました。 その高校は、大阪府立松原高校といいます。被差別部落の人々の願いを軸に「地元高校育成運動」の成果として生まれた学校です。その後、中学生らの署名活動によって知的障がいのある仲間の受け入れを始めたり、座学校教育の力を信じたい。生徒と共に踏み出す高校改革とは?豊かで持続可能な学校改革のために、今私たちは何を大切にすればよいのか。高校教育改革を中心に、若者のエンパワメントのあり方などについて実践研究している早稲田大学の菊地栄治教授に伺いました。「あそこは特別だから」から一歩を踏み出す早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授菊地栄治きくち・えいじ●東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。国立教育政策研究所総括研究官を経て、2005年より早稲田大学教員。専門は教育社会学。不登校、学級崩壊、高校中退、貧困など教育社会のゆらぎの背景、特に高校教育改革を中心に若者のエンパワメントのあり方について実践的な研究を展開。著書・編著に『進化する高校 深化する学び』(学事出版)、『希望をつむぐ高校』(岩波書店)など。取材・文/堀水潤一 撮影/平山 諭182019 OCT. Vol.429

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る