キャリアガイダンスVol.429
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したこともある。 「『ねばならない』と強いられると面白さが感じられなくなるので、その場にあがった情報の中に参考になるものがあれば取り入れてください、と個人に委ねています。そのなかで自然にお互いを高め合っていけたらと思います」(研究開発グループリーダー・林 睦先生) 現場発の取組例には、学務推進グループリーダーの田中和博先生が企画し、有志を募って実施した「元気アップキャンペーン」もある。これは、生徒が遅刻せず制服をきちんと着ていたらポイントが付き、貯まると食堂利用券に引き換えられるというもので、18年度に3カ月間実施した。 「できなかったら減点するより、できたことを肯定することで、生徒が前向きな気持ちで学校に来られるようにと考えました」(田中先生) 現在、田中先生は、交通の便が悪い同校においてバイク通学の制度化に取り組んでいるところだ。神奈川県はこれまで高校生のバイク利用を厳しく規制してきており、不可能ではと思われてきた案件だが、「生徒のためになることなら固定観念にとらわれず取り組んでいきたい」と実現を目指している。 こうした同校教員の挑戦の背景に垣間見えるのが、熊坂校長がモットーとする「やってみなはれ」の精神だ。教員からアイデアが出ると「やってみてうまくいかなくても、次にどうするか考えればいいだけ」と後押しする。 「失敗を経験したことのある人の方がいい仕事をするというのが私の考え。先生たちには『うんと失敗しよう』と呼びかけています」(熊坂校長) 最近は若手教員も、部活動加入促進のための体験入部の実施や、体育祭の種目の改変など積極的に改善案を出しているという。 「どんな大河もちょろちょろの流れが集まってできるように、小さな変化を積み重ねていくといつか大きな変化になる。とにかく流れを止めないことを大切にしています」(熊坂校長) 目指す学校像に向けてまだ課題は多いが、取り組む同校教員から伝わってくるのは、挑戦を楽しもうとする明るさや前向きさだ。そのなかで生徒の様子も変わりつつある。体育祭や球技大会では生徒の〝やらされ感〞が薄まり、本気で競技に打ち込む姿が目立つように。また、地域から同校に入る連絡には、肯定的な感想や激励が増えた。近隣中学校からは「安心して生徒を送り出せるようになった」との声も聞かれるようになってきた。 今後について熊坂校長は「生徒と共に学校をつくっていきたい」という。昨年度から、「津久井高校の未来」について生徒会本部役員と語り合うことも始めた。「自分たちの手で物事を変える感覚をもたせたい」と、生徒から挙がった提案はなるべく実現させる方針だ。「学校づくりは教員だけがんばればできるものではありません。生徒一人ひとりがわが校をこうしていきたいという意思をもって行動し、その意識が先輩から後輩へと受け継がれれば、教員が入れ替わっても学校は良い方向に向かっていくはずです」(熊坂校長) 生徒にも広がりつつある「やってみなはれ」の精神。どう学校づくりに活きていくだろうか。何も変えない方が楽ですが、それではつまらない。僕自身も楽しいと感じることを、型にはまらず仕掛けていきたい。僕が率先してやることで、若い先生方にも「やっていいんだ」と思ってもらえたら嬉しいですね。決められたことより、わくわくすることをしたい。失敗してもいいなら、なんでもやっちゃおうと、今、福祉科の学習の一環として、校内に認知症カフェを開設してはどうかと考えているところです。何かあれば校長にも相談。「やってみなはれ」と言われることで、失敗を恐れず挑戦しようと思えます。本校には大変なことも多いですが、これまでにないやりがいを感じています。瀬川洋平先生林 睦先生田中和博先生取材・文/藤崎雅子失敗を恐れず挑戦しようわくわくすることをしていきたい何も変えないのは楽だがつまらない改革の主体となった先生たちは…校長室の一角には熊坂校長が実現させたい「津久井高校未来予想図」を掲示。「閉じこもっていたら生徒を掴めない」と校長室の扉は常に開放し、教員や生徒が頻繁に出入りする。「シェアCAFE」の様子。参加者からは、「授業の悩みを気軽な雰囲気のなかで吐き出すことができスッキリ」「他の先生の考え方を知ることができ、自分の考え方も伝えられるのが良い」などの感想が聞かれた。体育祭や球技大会には教員チームも出場し、本気で勝利を掴みにいく。生徒は「先生たちには負けない」と対抗心を燃やすようになった。熊坂校長は生徒とすれ違うとき、必ずひと言話しかける。授業中ふらっと教室を訪ね、空席に座って生徒目線で授業を受けることも多い。「授業で守る5つのルール・教員編」をカードにし、教員はネームホルダーの裏側に入れて持ち歩いている。生徒も授業中にルールを目にできるよう、背中に「生徒編」を印刷した教員用ポロシャツの製作を検討中。「うんと失敗しよう」と教員の挑戦を促す教員の明るさ・前向きさで学校全体に変化の兆し「未来を創る主体」を育む学校づくりへ津久井高校(神奈川・県立)232019 OCT. Vol.429

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